ordermade relaxationsalon mah

西村麻里さん

最寄り駅
松陰神社前

路面店でもなければ、店外に看板すら設置されていない店でも、必要としている人には見つかるべくして見つかるものだが、「ordermade relaxation salon mah」もその一つだ。松陰神社前駅を降りてすぐの場所に建つマンションの一室で2013年に開業し、日々身体だけにとどまらないケアを求める人が訪れ、予約を取るのが困難なほどの人気店に成長した同店。オーナーでありセラピストの西村麻里さんに、セラピストとしての原動力とこの街への想いを聞いた。

文章・構成:伊藤佐和子 写真:平沼久奈(”hymy” family photo) 

心と身体をケアするということ

「心と身体は繋がっている」ということについて、本当に向き合えるようになるのは、もしかしたら一度限界を越えてしまったあとなのかもしれない。冒頭から多少物騒な話になるけれど、日々、自分自身の内面や健康に気を遣いながら暮らせている人はどれだけいるだろうか。セラピストの西村麻里さんが主宰する「ordermade relaxation salon mah」を訪れる女性たちも、子育てや仕事など生活の疲労やストレスを溜め込んでしまっている場合が少なくない。

「女性は誰しも、たとえどんなに地味な服装やメイクを選んでいても、美しくなりたいという気持ちが奥底にあるものだと私は思っています。“美しさ”とは見た目を着飾るということではなく、自己満足・自己認知から始まって、異性から認められて嬉しいと思う気持ちや、健康で楽しくて、リラックスできることから生まれる前向きなテンションが表情に現れてくるもの。内側からにじみ出る魅力というのは、心も身体も健康であることが不可欠です。お客様は、“今日この時に、ちゃんと身体や顔をケアして、元気な私になりたい!”という想いがあってここに来てくださいます。私はそのお気持ちを応援したいんです」

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「mahは、エステとリラクゼーションの間を目指している」と西村さんは続ける。たとえば“エステ”と聞いてまず頭に浮かぶのは、機械を使用したり、高価な美容液を使用したり、とにかく回数多く通わないといけなかったり、「贅沢品」という観点だろう。もちろん、mahの施術も決して安価とは言えないけれど、西村さんはやみくもに施術して一時的に得られる“結果”に意味があるとは思えなかった。

「これはお客様からいただいた言葉でもあるのですが、mahのテーマは“美容脳”を育てること。オールハンドの施術でリラックスして脳を安定させ、心や身体がほぐれていくなかで楽しい気持ちを大事にしながら結果を出す。繰り返しになりますが、気持ちが上向きになることで、明るい表情になって、身体にもいい影響が出ます。そもそも女性は男性とは身体のつくりが違うので、現代のように男女別け隔てなく活躍している社会の中で、女性は頑張る場面でぐっと無意識に食いしばってしまうもの。そうして顎が張って、表情筋がこわばってしまうことで、作り笑顔すら作れなくなってしまうことがあるんですよ。」

西村さんは時代や社会の流れで変わるニーズに目を張りながら、サロンの休日には技術研究や講習への参加など努力を惜しまない。そして、職場や家庭で頑張って疲れてしまっている女性たちが、本来持っているその人しか持ち得ない美しさを取り戻してあげたいと西村さんは続ける。そしてmahに通うお客さんのことを“笑顔美人”と嬉しそうに話してくれた。

「フェイシャルでは筋肉の深層部にはたらきかける独自のメニューがあるのですが、骨の近くほどの深い場所を動かすためにも、全体のストレッチが必要です。深いところをほぐすことで、機械にも劣らない結果を目指すことができます。あなたの顔はこんなに凝り固まっているけれど、本当は違うんだよ! 動けー! 動けー! と思いながらいつも向き合っています(笑)。それから、mahに居るときは心で描いていることを素直にストレートに出してもらえるように心がけていて、おこがましいかもしれませんが、それをすかさず察知するのが私の仕事。オールハンドだからこそ伝えられる温かみでその要望に応えたいと思っています」

子どもの頃から抱えていたコンプレックスがひとつの起点だった

西村さんは、小さな身体でとにかくよく笑う女性だ。話をするだけで元気になれそうな気がして、とにかく会うことが目的のお客さんもきっと多いのだろうと感じる。そんな西村さんも、じつは大きな苦悩を抱え、それを超えてきた過去があった。

「実は子どもの頃にとても太っていたことで、保育園でからかわれてしまって。どんどん大人しく、性格が暗くなっていったんです。当たり前だけど子どもには“ダイエット”という発想はありません。だから、自分という存在を認められないという思考に陥ってしまっていったんですよね。小学校の高学年くらいから生涯の友達に出会えたことが、近くにいる人たちの大切さを想う気持ちを教えてくれましたが、一方で中学生になった頃には自分のことを客観視しすぎる傾向が強くなり、自発的に行動ができなくなっていた気がします」

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自分自身に対するコンプレックスは高校生の頃がピークで、誰が見ても太っているとは思わない体型だったにもかかわらず、「食べる量を減らせば痩せられる」と、勘違いのダイエットを始めた。自分のことがあまり好きになれず、だからこそ自主性を消していたという当時の心の癖は、「痩せたら理想の自分になれるのでは」というある意味では結論に辿りついた。

「母は立場がある仕事をしていたし、父の持病が悪化していた頃だったので、家族がとにかくいっぱいいっぱいだった時期でもあります。元々あっけらかんとしている母は、私の変化にも“バイトが忙しいから痩せたのね! 頑張ってるね!”と気づかなかった(笑)。高校生の私は成績もスポーツも中くらいで、とにかく“自分っていったい?”という問いを常に抱えていました。そんなとき、父の姉でマッサージ師である伯母さんに、ちょっとだけやり方を教えてもらうことがありました。ときどきやってもらっていたので、体が気持ちよくなるのは知っていましたが、誰かにやってあげようと思ったのは、そのときが初めてでした」

自分の手で誰かを喜ばせることができる、その役割を知った

自分のことで悶々とした日々を過ごしていたなか、伯母さんに教えてもらったマッサージを、家で臥せていることが増えたお父さんにやってあげたいと思ったそう。お母さんとは対照的で口数が少なく、まるで文豪の芥川龍之介みたいなイメージだったと、お父さんを思い出して笑顔になる西村さん。

「本当に無口で、“ああ”とか“おう”しか言わない父が、背中をさすっているときに不意に“すごく気持ちいいな”と言ってくれたんです。そのとき、視界がパッと開けたような気がしました。子どもの頃に受けたショックで自分の主体性を消すようになっていて、家族の状況もあまりよくなかったことも重なりどん底だった中で、大げさだけれど、自分の役割を人生で初めて得た気がしました。自分の手で誰かを喜ばせることができることがこんなに嬉しいとは、それまで知らなかったんです」

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家族の意向もあり、専門学校ではなく大学に進学することを選んだ西村さんは、それでもいつかマッサージのお店を開業することを夢見て、経営の側面を固めようと商学部に照準を絞る。自分からマッサージをとったら、もはややりたいことはないと言い切れるほど、その意志はより強くなっていった。

「自分が精神的にねじれていって、身体のこともよくわからないまま自分を追い詰めていってしまったことが、今では大切な財産になりました。当時の私は本当にただただ一生懸命だっただけなんですよね。大学に進学して、ゼミやサークルの仲間や先生たちに恵まれて、今写真を見返しても高校生の頃の自分とはまるで違う顔になりました。未来の旦那さんとも出会えましたし(笑)。卒業後もとにかく開業をめざして燃えたぎって、職場と並行して出張の施術をしたり、もうこれでもかっていうほど体や精神を追い詰めたと思います。これからは、そんな経験を生かして、女性たちが自らの力で輝くサポートをしたいと思っています」

渋谷、吉祥寺を経て、たどり着いた松陰神社前

大学を卒業後に勤めていた大手チェーン店では、渋谷や吉祥寺など、人気で人が多く集まるエリアの店を任された。そんな街を知りながら、いざ開業するときに、なぜ松陰神社前を選んだのだろうか。

「働いている女性が多く居て、彼女たちが通いやすい立地を中心に考えていました。世田谷線に対しては、特に理由もなく“なんか好き”という感覚をずっと持っていたこともあり、都心からのアクセスが悪くないし、候補にあって。そのなかでも松陰神社前に絞ったのは、初めて降り立ったときに感じた温かい空気感が忘れられなかったから。そしてある日、物件探しをお願いしていた経堂の不動産屋さんから急に連絡を頂いて、内見後に即決で申し込んだのが今の場所です。ご近所だけでなく、都外からわざわざ小旅行気分で通ってくれるお客さんもたくさんいらっしゃるんですが、みなさん街の魅力のとりこで、街の力の強さに本当に助けられています」

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施術のあとにSTUDYでランチをしたり、ブーランジェリースドウでパンを買ったり、’OLU’OLUで買ったドーナツを差し入れてくれたり、お客さんたちはそれぞれの松陰神社前の楽しみ方をしているという。西村さん自身、日中はサロンにこもりっきりでなかなか街に出られていないというが、この2年半のあいだに、少しずつ大好きな場所が増えていった。

「麺屋かましのかまし麺が大好きで、’OLU’OLUの心のこもった優しいドーナツが施術の合間に私を癒してくれます。STUDYはこの街に来たときから心地よい時間を過ごさせてもらっているし、JINのラーメンは休日出勤時の楽しみ。牛和の焼肉は月末のご褒美で、天気の良い日は松陰PLATの階段でコーヒーを飲むのが好きですね。言い出したらキリがないくらい大好きな場所があって、みなさんに心から感謝しています。新規事業に部屋を貸してくれた大家さんも、仲介してくれた不動産屋さんも、みんなありがとう、っていう気持ちが溢れ出して大変です(笑)」

西村さんは止めなければそのままずっと続きそうなくらい、大きな笑顔でこの街の大好きなところを語ってくれた。この街に、こんなにパワフルで、それでいて心の底の声に耳を傾け、しっかりと内なる力を引き出そうとしてくれるセラピストがいる。もし少しでも心や身体がこわばってしまう日があったら、ぜひ西村さんに会いに、松陰神社前を訪れてほしい。

ordermade relaxation salon mah
住所:東京都世田谷区若林4-21-14
営業時間:10:00~21:00
定休日:月曜、隔週火曜

ウェブサイト:http://www.mah-o-r.com/

 
(2016/08/16)

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