ショコル

君島香奈子さん

最寄り駅
等々力

東急大井町線「等々力」駅北口から駒沢オリンピック公園に向かって歩くこと、約20分。小さな商店街に突如現れるのが、チョコレート工房「ショコル」だ。カカオ豆の仕入れからチョコレート製造、販売までを一貫して行うビーントゥバー(Bean to Bar)のスタイル。そして、カカオ豆を使ったユニークなスイーツや調味料を見れば、カカオ豆に注がれる愛情の深さが分かる。店主の君島香奈子さんに、カカオ豆への想いをお聞きした。

文章・構成:小松﨑裕夏 写真:松村隆史

はじまりは、カカオの香りが強いさっぱりしたチョコレートとの出会い

ドアを開けた瞬間、深くて甘いチョコレートの匂いに包まれて、思わず笑みが浮かぶ。ショップのすぐ裏に工房があり、できたてのチョコレートや加工途中の酸っぱいカカオの香りがダイレクトに伝わってくるのだ。

日本でビーントゥバーの人気に火がついたのは2014年頃。「ショコル」がオープンしたのはその1年前だから、店主の君島さんはさぞかしチョコレート好きかと思いきや、意外な答えが返ってきた。
「チョコレートは好きだけど、大好きというわけではありませんでした。食べると胸やけしたり肌が荒れたりしてしまうので、少し警戒する食べものでした」

その見方が変わったのは、2011年、フィリピンを訪ねたときのこと。現地の人が作ってくれたチョコレートドリンクに衝撃を受ける。すりつぶしたカカオ豆に砂糖と牛乳を加える飲みもので、カカオの生産地であるフィリピンでは身近な存在だそう。
「カカオの香りが強くてさっぱりしている。今まで出会ったことのないチョコレートの味で、しかも毎日飲んでも肌荒れしないのに驚きました」

以来、チョコレートの虜になった君島さん。帰国後、あのチョコレートドリンクが飲みたくてネットで検索するうちに、アメリカでは自宅でチョコレートを作って楽しむ「ホームチョコレート」が流行っていると知る。それは、大量生産されるチョコとは違い、乳化剤や香料などを使わず、カカオと砂糖だけで作るシンプルなもの。これなら自分でも作れそうと道具や材料を取り寄せ、見よう見真似で製作。すると、カカオの風味が強いチョコレートができあがった。
「これも肌荒れしなかったんです!余計なものが入っていないせいかなと思い、そういうチョコレートを探しました。でも、日本ではあまり売っていなくて」
ならば自分で作って売ろう。お店を持つことを決意した。

DIY精神で作ったオリジナルの味

商品化するにあたり、まず考えたのが道具だ。
「そもそも昔のチョコレートはどのように作られていたのかと思い、大量生産される前のチョコレートについて調べてみたんです。すると、もともとは手作業で作られていた。私も同じように、できることは何でも自分でやってみようと思ったんです。また、工場のように大規模な設備でなくても、小規模の設備で工夫して、どこまで作れるか試してみたかった、というのもあります」

例えば木製の「唐箕(とうみ)」。カカオ豆を焙煎し、荒く砕いた後、チョコレートのもとになるカカオニブと、不要な皮とを選別するのに使っている。

手動でハンドルをまわして風を送り、軽い皮を吹き飛ばす。実はこれ、農家さんが脱穀後の穀物を精選するのに使うための道具だ。有名なチョコレートブランドでは大型の電動機械を使うのが一般的だが、小規模生産のための小型の道具を探したのだそう。
「小型でも十分役割を果たしてくれます。唐箕自体は中古の農機具を手に入れることができましたが、皮を選別する道具の名前が"唐箕"ということを知らなかったので、その名前にたどり着くまでに結構時間がかかりました(笑)」

その後、加熱式の石臼でカカオニブをすってペースト状にしていくが、この石臼はメーカーさんにオリジナルで作ってもらったというから驚く。
「一般的な道具を使うと潰すのに時間がかかり、その間に豆の酸味が飛んでマイルドになるんです。酸味は豆の産地や品種によって異なる個性そのもの。つまり、個性がわかりにくくなってしまう…」
悩みに悩んで思いついたのが、チョコレート作りに昔使われていた石臼。しかし当時、カカオ豆をつぶせる石臼は日本にはなかった。でも諦めずに、自らメーカーさんに相談し、豆が持つ個性を残すことのできる石臼の共同開発が決まった。

ショップスペースは人が2〜3人入るといっぱいになる。
「敷地が狭いので、小屋の雰囲気と、DIY感が出るよう内装をお願いしました」
小屋のように板を打ちつけた壁や、天井から逆さまにぶら下がる地球儀、石や工具で作ったカード立てなど。カカオ豆がチョコレートになるまでの工程を描いたオリジナルのイラストや、カカオの実も飾られている。それらを見ているだけで、知っているようで全然知らなかったチョコレートやカカオとの距離がグッと縮まるような気がして、なんだか嬉しい。

こんなふうに、できることは何でも自分でやろうとひねり出した数々の知恵。それはいつしか「ショコル」ならではの個性となった。

カカオが秘める可能性を探って

ショコルを立ち上げる際、君島さんが考えたお店のコンセプトは「カカオの食材としての可能性を追究する」こと。その言葉通り、店頭にはチョコレートと、カカオを使ったお菓子や調味料が半々ずつ並んでいる。
看板商品のチョコレートは、カカオ豆に砂糖のみを加えたシンプルなコイン型チョコレート「美しい鳥QUETZAL(ケツァール)」。砂糖の粒子をあえて残すことで、カカオのほろ苦さや酸味、つぶつぶした砂糖の食感を楽しむことができる。

そして、君島さんが作りたいのはチョコレートだけではないのだ。
「オープン前にチョコレートの歴史に関する本を読んだとき、カカオにはいろいろな使い方があると知りました。カカオ豆=チョコレートの原料と思いがちですが、そうじゃない。それからずっと、カカオをチョコレート以外の食材にどう生かせばいいのか考えてきました」

「原石」は、世界でも珍しいカカオニブを砂糖でコーティングしたスイーツ。そのままでは少し食べにくいカカオニブをおいしく食べられるように工夫したもので、カカオ本来のおいしさを直に味わいたい人にぴったりだ。

君島さんのおすすめは、カカオ料理のワークショップで好評を得たものを商品化した、カカオの調味料「カカオホリックソルト CACAO HOLIC SALT」。カカオニブと塩、こしょう、唐辛子などを合わせて瓶詰めしたもので、ひとふりするだけで深みとコクが増すすぐれものだ。5種類あるが、いちばん使い勝手がいいのが唐辛子入りの「ハチドリ」。肉から魚、サラダ、インスタントラーメンにと、どんな食材にもマッチする。つい最近、3年近く試行錯誤したミルタイプがようやく加わった。
「油分が多く、普通のミルだと目詰まりしてしまう。ちょうどいい容器を探すのに苦労しました」

駅から遠い場所にお店を構えるわけ

お店を始めてから約6年。お店に買いに来てくれる人も、ネット注文してくれる人も増えており、売り上げは順調だ。
「素材にこだわっているチョコレートを探して、弊店にたどりつく方が多い印象です。自分がやってきたことが伝わっていると実感しています」
地元の人は、誰かに頼まれて手土産として買って行く人が多いそう。
「この辺りは駅から離れていますが、落ち着いた暮らしをしている方々や美食家が多く、ご近所の方々にも支えられています。以前、ご年配の女性がいらっしゃって、『自分が子どものころに食べたチョコレートと味が似ている』と言われ、すごく嬉しかったです」

それにしても、この街に店を構える決め手は何だったのだろう。最寄りの駅から近いわけでも、人通りが多いわけでもない。不安はなかったのだろうか。

「この近くを通ったとき、貸店舗の張り紙をたまたま見つけて、条件が合ったので申し込みました。実は、オープン当初はオーダーチョコレートの受注製作や、ケータリングサービスをメインとする予定でした。製造所としての工房を考えていたので、駅から離れていてもよかった。それに、自分がやっていることが世の中に受けられるのかわからなかったので、大きく出ようとは思っていなくて。ひっそりした場所は作業にも集中できるので、逆に好都合でした」

状況が変わったのはオープンの翌年。日本にビーントゥバーブームが到来し、メディアでの露出が増えた。問い合わせや注文が多くなり、業務を小売り販売メインに変更。少しずつ商品の数を増やしていった。
「運よく時代の流れに乗っかって、今に至る感じです」と君島さんは言うけれど、決してそれだけではないと思う。ものづくりに真摯に、情熱を持って向き合う姿勢が人を惹きつけ、ときに巻き込んでファンを増やしたに違いない。

まだ誰も知らないカカオの食材としての可能性を引き出すために。今日も工房では試行錯誤が繰り返される。それがカタチになる日はそう遠くない。

ショコル
 
住所:東京都世田谷区深沢5-1-23
電話番号:03-6432-2265
営業時間:14:00-19:00
定休日:不定休
ショコル ホームページ http://xocol.jp/

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