アジアで使われる”漆”が舞台の展示
三軒茶屋のキャロットタワー内にある世田谷文化生活情報センター 生活工房で現在(2018年9月1日〜10月21日 )開催されている『クライム・エブリ・マウンテンvol.2「漆がつなぐ、アジアの山々」』。世界各地の民族の装いや道具、所作を撮影・研究してきた井上耕一さんが集めたバリエーション豊かな漆製品約100点が展示され、漆とともに生きる人々の暮らしが紹介されています。日本をはじめ、中国、チベット、ミャンマー、ベトナム、ブータンなど、アジアで古くから食器や家具、住居、装身具など日常のものから、儀礼の道具や宗教建築にも天然の防水剤、接着剤として活用されてきた漆。この展示の関連イベントとして、開催されたのが『卵と漆のワークショップ』です。
漆に触れてみる
2018年9月15日。天気はあいにくの雨。ワークショップの講師は漆作家ユニット「うるしさん」。うるしさんは、『楽しくうるしと。』をコンセプトに、漆を身近に感じられる場をつくっている2人組のユニット。普段は世田谷代田で漆をつかった金継ぎや日用品制作を行いながら、金継ぎや漆にまつわるワークショップを開催しています。
「今日は漆を扱うには最高の天気! 実は漆は湿気がある方が乾きやすいんです」
さっそく漆の特徴を教えてくれた明るくフレンドリーなおふたりに、参加者の緊張も解れていきます。参加者はほとんどが女性のひとり参加。70代から20代までと年齢層は幅広かったですが、あっという間に打ち解けていました。
今回行ったのは、卵の殻を使った技法「卵殻貼り」を使って、漆を染み込ませたカードに模様を描いていくというもの。まずは、その素材作りから。卵を割り、殻の内側にある薄皮を剥いでいきます。実は卵殻の内側にも4〜6層ほど薄皮が重なっているのです。薄皮を剥ぐ理由は、カードに貼り付けたときにできる無駄な凹凸をなくすため。なので、ムラなくしっかり剥ぎ取っていきます。薄皮はしっかり剥ぎたいものの、力を入れすぎると卵が割れてしまう、なんとも難しい素材作り。本来はニワトリの卵よりも殻が薄いウズラの卵も使用するそう。ニワトリの卵でも難しいのに、もっと薄いものを扱うなんて…。
卵の薄皮が剥ぎ取れたら、しっかりと乾かします。
その間に、講師・うるしさんによる模様付けのデモンストレーションが行われました。
ここでようやく、漆の登場! うるしさんによって、小麦粉と水を粘土質に練った土台に、漆を混ぜて、粘り気を出した”ノリ”が作られます。漆は銀杏のような匂いで、生産地によって色や粘り気も異なるそう。
そして、いよいよ模様を描いていきます。漆はやはり身体に付いてしまうとかゆみが出てしまったり、衣服に付いて固まってしまうと取れなくなってしまうので、手袋やエプロンをして細心の注意を図りながら作業を進めます。
デザインを決め、カードに下書きをしていざ。漆を竹串で少しだけ取り、下書きに沿って均等に伸ばしていきます。少なくても卵殻がうまく貼れず、多すぎても卵殻の間からぶにっと出てきてしまったり。少しずつ量を調整しながら、漆の扱いに慣れていきます。卵殻は大きめのかけらを乗せ、力をかけてパリッと割る感覚が気持ちよく、偶然できた割れ目から新しいデザインに繋がることもありました。うるしさんからアドバイスをもらったり、参加者同士で楽しそうに話しながら作業を進めていましたが、途中からはしんと静まり返って集中モードに。一気に制作を進めます。
集中すること1時間。あと30分で出来るかなと焦りはじめた時に、なんともいい香りが! 参加者で割った卵の中身で作られたオムレツが登場! たっぷりの油で揚げたというオムレツは、外はカリッと中はふんわりとしていて、小腹にちょうどよかったです。しばしの休憩を挟んで、制作は大詰めへ。
1時間半、集中して行った(途中オムレツ食べてましたが!)成果を、参加者に発表していきました。参加者はほぼ全員、漆を扱うのは初めてだったようですが、「今回で手応えを感じれた。またやりたい!」と話していました。私もはじめは恐るおそる漆を扱っていましたが、触れていくほどに新しいアイデアが出てきてどんどん楽しくなり、思ったような仕上がりになって大満足。
講師のうるしさんは「卵殻を貼るなら糊やボンドでもできる。でも、漆で貼ると、糊やボンドとは全く違った仕上がりになる。手間はかかるけど、その分魅力的でおもしろい」と話していました。
漆は完全に乾くまで、時間がかかります。今回ならば約2週間ほど。しかも湿ったところに置けば置くほど、早くしっかり乾くとのこと。今は1週間目。あと1週間、どんな表情になるのか楽しみです。
(はせがわ)
2018/09/25