保護猫カフェ駒猫

吉田清美さん

最寄り駅
駒沢大学

6月1日(月)より営業再開いたします──駒沢公園通りに店を構える保護猫カフェ「駒猫」のサイト、トップページに掲載されたメッセージを目にして胸が熱くなった。2020年5月25日、新型コロナウイルスに係る緊急事態宣言が解除となり、町が、人が、日常を取り戻すべく少しずつ動き始めた頃、2ヶ月近い営業自粛を余儀なくされていた同店も同じように新たな一歩を歩み始めていた。 「緊急事態宣言が発令された4月頃は、閉店を覚悟したこともあります。でもたくさんの人たちの暖かくて心強い声と支援に支えられ、苦しい時期を乗り越えてこうして再開することができました」と語るのはオーナーの吉田清美さん。かたわらの猫を見つめるその目は少しうるんでいた。

文章・構成:粟田佳織 写真:田辺エリ

猫好きだっているはず!…犬の聖地にあえて保護猫カフェをオープン

「保護猫カフェ」は、ボランティア団体などが保護したり愛護センターから引き出したりした飼い主のいない猫たちが集まるお店。店内は家の中のような雰囲気で、フリーで動き回る猫たちと過ごせるので保護猫を迎えようとしている人と猫の出会いの場として、また、猫と暮らしたいが事情があって迎えられない人が触れ合える場として近年人気が高まっている。


2018年8月にオープンした「駒猫」も常時十数匹の保護猫が集い、これまでに70匹以上の譲渡をとりもってきた保護猫カフェだ。大きな並木道が象徴的な駒沢公園西口の真正面に位置するビルの4階。周囲にはスタイリッシュなカフェなどに紛れ、犬のグッズを扱うショップが点在している。
「駒沢といえば全国でも有名な犬好きさんの聖地として知られていますよね。でも世田谷の人たちは動物愛護の意識が高いので絶対に猫好きだっているはずだ! と、あえて聖地に飛び込みました(笑)。オープンしてみるとやっぱり多くの猫好きの方がいて、『こういうところを待っていたのよ』なんて嬉しい言葉もいただきましたね」

里親が見つかりカフェから出ていくことを卒業と呼んでいる。卒業した猫の6~7割は区内の方たちの家に迎えられているそう。

動物とかかわるなかで芽生えた小さな思い

鹿児島県で生まれた吉田さんは高校卒業後、駒沢短期大学進学のために上京。社会人になってからずっと世田谷区内に住んでいる。
「世田谷が大好きで、学生時代も働きだしてからも遊ぶのはもっぱら三茶や駒沢。でも若い頃は猫はもちろん動物とはまったく関係ない生活でしたね」

吉田さんと猫との出会いは20年ほど前にさかのぼる。
「当時住んでいた若林のアパートのベランダに牛柄の猫がやってきて、なんとなく家に入れたらそのままいつくようになったんです。それまで実家で犬や鳥などは飼ったことはあるものの猫には縁がなかったんですが、一緒に暮らしてみるとドハマリました(笑)。もう可愛くて、愛しくて、見ているだけで涙が出てくるほど。猫は懐かないって聞いていたけれどその子とは意志の疎通ができていて……わかり合えていた気がするんです」
それを機に猫との暮らしが始まり、現在自宅でともに暮らす16歳の猫は3代目。

2008年、40歳を前にこれからは好きな仕事をしたいと、勤めていた会社を退職。縁あってペットシッターの仕事を始めた。

「うちの猫を初めて預けたことがきっかけでペットシッターという仕事に出会い、興味をもってすぐにその人の上司を紹介していただき、直談判したんです。自分もやりたい、やとって欲しいと」

晴れてペットシッターとしてお散歩代行などを行う日々が始まった。生き物を扱う仕事は大変ながらやりがいや喜びも大きかったという。

「たくさんの犬や猫、飼い主さんたちと知り合って毎日が楽しかったですね。そのうちオーナーがドッグホテルをオープンしたので、そこのスタッフとして働き出したのです。閉店するまでの約5年間、家では猫、職場では犬まみれという日々でした」

仕事を始めた頃オーナーから「あなたの夢は何か」と訊かれたときの答えが、その後の吉田さんの指針となったと語る。
「突然訊かれて、何も考えていなかったんですけれど、とっさに『保護猫と人の出会いの場を作りたい』って答えていたんですよね。いつ思いついたのかわからないのですがそう答えていました。オーナーが『それはいいわね』って言ってくれて、でももちろんそのときは夢でしかなくて、できるなんて思っていなかったんだけど……思いはずっと胸のすみにありました」

ボランティアにかかわって見えてきた夢の実現

その後、ドッグホテルは閉店。吉田さんはペットシッターとして独立し、お散歩代行や留守時のお世話など、世田谷区や目黒区を中心に活動、私生活では結婚と、充実した日々を過ごしていた。そんな中、友人に誘われて訪れた保護猫カフェにボランティアスタッフとしてかかわるように。そして1年半もすると、かつて心に抱いた小さな思いが芽吹いてきたという。

「スタッフとしてかかわるうちに保護猫カフェの魅力や意義を実感してきたんです。運営のことも覚えていって……すると自分にもできるかもしれないと思い始めて、そうなるともう『やろう!』になって。まずは夫の説得から始まりました」

都内の保護猫カフェを周り、情報収集。貯金を崩したり生命保険を解約したりして資金を捻出。先述の通り、駒沢付近で開業しようと物件探しに入る。気になっていた物件が空くという情報を入手し、直接借り主に連絡をとり、管理会社に直談判。
「ほかにも大手の方が借りたいと手を挙げていたそうなんですが、管理会社の方が保護猫カフェに理解を示し『吉田さんに貸したい』と言って決めてくださったんです。そして前の借り主の方が空間コーディネーターをやってらっしゃるということで、リフォームをすべてしていただきました」

吉田さんのお話を聞いていると「猪突猛進」という言葉がちらついてくる。思い立ってからの行動の速さや瞬発力、押しの強さに圧倒されるものの、強引とは感じない。しかも最終的に周囲の協力や応援までとりつけるのだから頭が下がる。きっと吉田さんから発せられる掛け値なしの「一生懸命さ」が、人を動かすのかもしれない。

2018年8月9日、保護猫カフェ「駒猫」はグランドオープン。犬の街・駒沢に猫のサンクチュアリが誕生した。
いざスタートすると試行錯誤の連続。動物関係の仕事には慣れていても経営者としては初めてで、思ってもいない困難や壁にぶち当たることも。それでもすべては通過儀礼と一歩ずつ乗り越えてきた。とりわけ保護猫を病気でたて続けに亡くしたときは立ち直るのに時間を要したそう。

「たくさんの保護猫を扱う以上、避けられない問題だと最初に覚悟はしていたんですよね。でも辛かった……。こんなに辛いことがこれからもあるなんて、今後やっていけるんだろうかと悩んだりして。でも常連さんや里親さんたち、スタッフのみんなが励ましてくれて、なんとか立ち直ったんです」

駒猫には週に何度も通ってくれる常連さん、駒猫の猫を迎えてくれた里親さん、SNSを通して応援してくれるフォロワーの方などが大勢いる。吉田さんや猫たちにとって心強いサポーターだ。


たくさんの優しさと善意に支えられて叶った営業再開

4月。緊急事態宣言が発令され、自粛に入ったときも応援してくれる人たちによって吉田さんは前を向けたという。

「最初は不安しかありませんでした。家賃や人件費以外に、猫たちの食費や医療費も必要だし、先が見えないなか、もうダメかもしれないと思ったり。でも常連さんたちが『絶対に駒猫を守る』『ここはなくさせない!』『吉田さんの笑顔が見たい』と言ってくれて」

そうした声に背中を押され、当初は落ち込んでいた吉田さんもすぐに頭を切り替え、持ち前の行動力を発揮した。

「まずは支援用の口座を開き、発信しました。そしてそれまでのツイッターのほかにnoteでも支援をお願いしました。政府や行政の支援にもどんどん応募しました。猫たちのため、駒猫を愛して応援してくれる人たちのため、なりふりなど構わずできることはなんでもやろうと」

吉田さんの情熱は、多くの人の心に届き、たくさんの善意となって返ってきた。

「おかげさまで、つぶすことなく再開の日を迎えることができました。もちろんまだまだ先のことはわかりませんが、みなさんの善意をムダにはできない、やるしかないっていう気持ちです」

実は吉田さんの記事は4月末に公開する予定で動いていた。2月に初めて駒猫を訪れ、多くの保護猫たちに歓迎(おそらく)してもらった筆者は記事を書くのを楽しみにしていたのだが、よもやのコロナ禍、緊急事態宣言で取材は延期。駒猫さん自体も今後どうなるかわからないといということでひとまず保留に。だから営業再開の告知を目にしたとき、保護猫たちの伸びやかな姿と太陽のような吉田さんの笑顔が頭に浮かび、嬉しくなって早々に取材日を決めたのだ。

駒沢公園の並木道を望む一面の窓は日々のパトロールに最適。大小のキャットタワーやベッド、ハンモック、螺旋階段と吹き抜け、キャットウォーク、そして猫を愛する人たちに囲まれ安心しきったようすの保護猫たち。駒猫には猫たちにとってこれ以上ないほどの環境が備わっている。

「でも、本当は家族といることがいちばんなんです。ここにずっといるより、大切に愛してくれる家族に迎えられるのが猫にとっていちばんの幸せなんです」

と語る吉田さん。今回のコロナ禍を体験してあらためて強く思ったことがあるという。

「大勢の方に助けていただき、恩返しに何ができるかを考えてたどり着いたのは、やはり猫たちの幸せなんですね。少しでも多くの保護猫たちに里親を見つけて、お届けすること。それって猫だけじゃなく迎えてくれた人間も幸せになるんですよね。応援してくれる常連さんやSNSの読者の方たちも。だからこのお店を維持して譲渡を続けていくことが私にできる唯一の恩返しなんだと思っています」

保護猫カフェ駒猫
住所:東京都世田谷区駒沢4-12-22 ティファーレ駒沢4F
電話番号:03-6876-8465
営業時間:12:00~20:00
定休日:水曜日
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