bororo

赤地明子さん

最寄り駅
新代田

新代田駅から徒歩5分。羽根木の住宅街の中に、急に空気が変わるエリアがある。一本路地を入っただけですぐ側に環七の喧騒があることが信じられないくらい静かで、都会とは思えないほど豊かな木々が、ゆったりと風に枝葉を揺らして出迎えてくれる。コンクリートの建物と自然が不思議と溶け込む「羽根木インターナショナルガーデンハウス」の一室にアトリエを構えるのは、ジュエリーブランド「bororo(ボロロ)」のデザイナーで宝石商でもある赤地明子さん。たっぷりと光が差し込みゆらゆらと木の影が揺れる心地よい一室で、デザインに込めた想いをお聞きすると、宝石に向けた彼女らしい眼差しが見えてきた。

文章:内海織加 写真:阿部高之 編集:鈴石真紀子

石が辿ってきた足跡をそっと大切に忍ばせる

ショーケースの中に並ぶ「bororo」のアイテムを目にして、思わず心の中の少女が目を輝かせた。色といい形といい、それらはいわゆる宝石というワードに違和感を感じてしまうほどにかわいらしくて、まるで生き物が大人しくちょこんとそこにいる、みたいな愛らしさすら感じる。つるりと美しく磨かれていたり、角度によって違う輝きに出会えるようなカットが施されているのだが、そのどれもがほんの少しの歪さを含んでいて、そこにこそ美しさを感じてしまう。

「私が目指しているのは、石をそのまま肌に載せているようなジュエリー。石は、すでに完成されたアートピースなので、『ちょっと尖っているから少し削るね』『ちょっと汚れているところを拭こうか』っていう感じの手の入れ方が理想的。全て信頼している職人さんとコミュニケーションを取りながら作っているんですけど、石をいかして作っていただくことを一番にお願いしています」

「石って、環境が整うと人が削ったみたいにきれいな形に仕上がります。むしろ、人が削ったり磨いたりするよりも美しく輝きもありますから、それ以上手を加えなくても十分。結晶面と呼ばれるそのような面は、職人さんにも残していただくようにお願いしています。原石で買い付ける時に、宝石がくっ付いていた母岩をあえて残してジュエリーにすることもあります。その石の面影や生い立ちがわかる足跡を、ちょっとだけ残したくなったりして。自己満ですけどね(笑)」

この日、赤地さんが身につけていたネックレスは、「川石をそのまま身につけたい」という発想から生まれたというもの。それもまた、色鮮やかに輝く宝石たちに劣ることなど全くなく、石の美しさと魅力を存分に発揮していて、彼女の石への眼差しがいかに純粋であるかが伝わってくる。

「私は、世の中的な価値とか価格ではなく、自分基準で石を選んでいます。宝石業界では、色が濃いほうが良いとされている石でも、薄い色が素敵だなとか天然の燻んだ色が好きだなと思ったらそちらを選びます。自分がいいと思っているものがいい。そういう基準で石を見るようになったら、一層楽しくなりましたね。お客様も同じように選んでいただけたら楽しいと思います」

地球の営みを内包した原石に魅了されて

「サファイアを顕微鏡で覗くと、光が三角形に交差して延々と続いているのが見えたり、ダイヤの中にガーネットが入っていたり、液体のインクルージョンが入っていたり。例えば、オパールは1センチ大きくなるのに、500万年くらいかかると言われています。人が経験できない膨大な時間、そして地球の営みがこの石の中に閉じ込められていると思ったら、感動しちゃって。宝石って、いろいろな偶然が重なってできています。地中に埋まっているときはその色や美しさは光のない暗闇の中にあって、掘り起こされて初めて、石に光が射すことで表に出る。それってすごいなぁって」

石のことを説明するとき、赤地さんの表情や口調は、まるで親しい友達を紹介してくれているようで、いかに彼女が石に愛情を持っているかがよく伝わってくる。

やさしく石を手に載せながら、「はじめは石を買い付ける宝石商からスタートしたんです。その時は、ジュエリーデザインをするつもりはなくて」と彼女は言った。それが、なぜbororoというブランドを立ち上げることになったのだろう。

ニューヨークの宝石鑑定機関の学校で宝石学を学び、GIA.G.G.(米国宝石学修了)を取得した後赤地さんは旦那さんと2年半をかけて世界一周旅行をした。バックパックを背負っての貧乏旅。宝石の産地を調べて訪れる先々で原石を買い、それを眠る前に安宿の枕に並べては、かわいいなぁと眺めたりしていたのだそう。

「何がかわいいって、全部がちがうんです。石って手相くらい全部ちがいます。原石だと、その個性もわかりやすいんです。でも、最初はカットした宝石を売ろうと思っていたので、カットの技術が高いスリランカで腕のいい職人さんを紹介してもらって、世界旅行中に買い付けた原石をカットしてもらうと、均一で美しくはなったのですが、個性がなくなってしまった感じがして……。そこで残念に思ったことは、今でも忘れられません」

一つひとつが持つ個性を大事にしたい。ひとつとして同じものがないそれぞれの魅力を消したくない。その気づきが、赤地さんの重要なクリエイティブベースになった。そして、この想いを叶えるジュエリーを作るために、bororoは誕生した。お話を聞くほどに、宝石というものへのイメージはどんどんと変化していく。きらきらと輝きを放って華やかで、豊かさの象徴のように見えていた宝石も、もともとは大地の一部であり、地球が生み出したもの。小さな美しい石の本当の価値は、そこにあるのかもしれない。

旅先で目にした“魔除け”を都会の女性にも

すっきりと整頓された気持ちのいいアトリエの中に、旅先で買ったという民族的なお面やユーモラスなポーズを決める人形が置かれていたのが気になった。

「アニミズムや民族での儀式に興味があって、買い付けの途中でそういうものに触れられそうな地を訪れた時のこと。各地で、身体の一部を捧げ、直接石や金属を突き刺す代わりに、厄災から守られると信じる人々を度々目にして、装飾としてではなく、民族に伝わる大切な魔除けやお守りとして身につけるという、そのアイテムの意味に強く心惹かれました」

そんな旅先で出会った光景は、bororoを代表するひとつのアイテムとして誕生した。それは、金の針をただ突き刺したようなシンプルなピアス。

「普通のピアスって、径が0.65〜0.8ミリくらい。太くても1.0ミリです。でも、このアイテムの一番太いところは、1.2ミリ。普段しているピアスに比べると、挿した時にちょっとだけ痛いと思います。それは、その痛みと引き換えに安心する、都会に住む私たちが魔除け感を味わって身につけられるものにしたかったから。旅先で出会った方が身につけていたものはキャッチなんてついていませんから、これもキャッチのない構造にしたくて返しのある特殊な構造を考えたんです」

ジュエリーというと、身につける人を美しく見せてくれたり華やかさをプラスしてくれたりする印象もある。でも、もう一つの大切な役割として、身につけている本人が気分を上げることができたり、大丈夫だと思えたり、心の内に作用するものでもあるとあらためて気付かされる。

生まれ育った羽根木で繋がる心地よいコミュニティ

アトリエは、時間が経過するごとに太陽の角度も光の質感も変わって、その変化の中に身を置いていることも心地よい。この環境が気に入ってここにアトリエを構えたのかとばかり思っていたのだが、その答えは意外にも「自宅から近くて。それに、この辺りで育ったので安心感もあるのかな」と赤地さん。梅丘で生まれ育って、若林に引っ越し、幼い頃は毎日のように羽根木公園のプレイパークで遊んでいたという生粋の世田谷っ子。この辺りは、もともと馴染みのある場所だ。

「あまりに地元で、この場所を特別には感じていないんですけど、これだけ大きな木をたくさん残して建物が建てられているのは素晴らしいと思います。大家さんとは、2020年に初めて開催した『羽根木マルシェ』をきっかけにお話させていただくようになったのですが、この地を気に入った人が少しずつ集まってくれるような場所にしていきたいとおっしゃっていて、とっても素敵だなぁと思いました」

羽根木マルシェは、2020年9月に羽根木インターナショナルガーデンハウス前の通りで行われた小さなイベント。赤地さんはその立ち上げメンバーのひとりでもある。

「2020年の初夏、外出自粛が一旦解除された頃にご近所の仲良しメンバーでランチをしながら、『なにかやりたいよね』って。お花屋さんの『malta』さんがいろんな人を紹介してくれたことで繋がりもでき、この辺りのマップを作ることからはじめました。その後、インスタグラムだけで告知してマルシェを開催したら、思いの外、たくさんの方に足を運んでいただけたんです。意外だったのは、ご近所に住むご年配の方が、お散歩で久しぶりにわくわくしたと言ってよろこんでくださったこと。コロナで気が滅入る日々でしたが、1日だけ老若男女楽しめるイベントを開催できたことが嬉しかったですね」

2021年4月の羽根木マルシェでは、bororoも参加型で楽しめるワークショップを企画し、ジュエリーづくりのパートナーである職人さんを迎えた宝石の研磨体験のワークショップと、砂の中から宝石の欠片を見つける宝探しを開催。大人のものとカテゴライズされやすい宝石だが、あえて子どもも触れることができる機会を設けるのには、赤地さんの原体験が影響している。

「香川の高松市に住んでいた祖母が宝石好きで、子どもの頃は、長期の休みで遊びに行く度にドレッサーに並ぶジュエリーを目にしたり付けさせてもらったりしていたんです。祖父も石が好きで、旅先で見つけた立派な石に場所と日付を彫ってもらって、居間に飾られているのを目にしていて。だから、石は幼い頃から身近にある大好きなものでした。幼い頃から知らず知らずのうちに、祖父母の影響を受けていたのは、おもしろいですよね。 羽根木マルシェで行う宝探しでは、見つけた宝石の欠片を瓶に詰めて持ち帰ることができます。幼い私がきれいな宝石を見て胸をときめかせたように、石に興味を持つきっかけになったらいいなと思っています」

bororo

住所:東京都世田谷区羽根木1-19-15 IGH B12
電話:03-6317-9868
営業日:金曜、土曜、日曜(アポイントメント制)
営業時間:11:00〜18:00
ウェブサイト:http://bororo.jp/
Instagram:@bororo_official
Facebook:@bororo.jp

(2021/04/13)

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