UPOPO by touta inc.

ユーゴさん

最寄り駅
若林

若林駅から歩いて10分弱。静かな住宅街の中に、ジャスミンやホワイトセージ、小さなポットに植えられた多肉植物などが出迎えてくれる白い建物がある。内側にはパッチワークのカーテンがかかって、ガーリーなかわいらしさも覗くこちらは、昨年の夏、8年ぶりにお店として再びオープンした「UPOPO by touta inc.(ウポポ バイ トウタ インク)」。日本では使っている人がほとんどいなかった頃に「布ナプキン」ブランドを立ち上げ、その必要性と心地よさを伝え続けてきたユーゴさんが営む飲食店だが、カフェであり、バーであり、酒屋であり、ワークショップに参加できる場所であり……きっと訪れる人によって肩書きはいろいろ。まるで海外のダイナーのようなポップさと、お家におじゃましているようなアットホームさが絶妙に混じり合う独特の心地よさの中で、お店について、そしてユーゴさんご自身の活動についてお訊きした。

文章:内海織加 写真:阿部高之 構成:鈴石真紀子

代々受け継いだ元町工場をアトリエと集いの場に

店内におじゃますると、パッと目に飛び込んでくるのはラブリーなピンク。テーブルもワインセラーも店主ユーゴさんのお召し物まで、ピンク! ピンク! ピンク!

「今回は好きなもの全開でいっちゃおうかな! って思って。まずはワインセラーの壁を塗って、その後にカウンターの下とテーブルもピンクにしちゃった!」とユーゴさん。そんなかわいらしいトーンの中、ワインセラーの入り口には「(有)富士機工社」という看板がどんと掲げられ、おもしろいアンバランス感。

「もともと、ここは祖父の代から続く町工場だったの。最初はネジを作っていて、父の代からは工具の部品を作るようになって。兄が事故に遭って工場を継げなくなっちゃって、必然的に私が引き継ぐことになってね。工場は閉めて、住居だったところはアトリエにして、ここは職人を引退した父のためにお店にして。結果的に、職人が飲食店を切り盛りするのは難しくて10ヶ月で閉めちゃったんだけど(笑)」

店内には工場で使われていたというリアルヴィンテージの引き出し棚が並べられ、それがラブリーな空間にピリッといいアクセント。ところどころに見えるかつての名残に、ユーゴさんの大きな家族愛とお父様やお祖父様への敬意を感じずにはいられない。

店内のフロアからは、ガラス越しにユーゴさんのアトリエが見える。そこには、彼女のさまざまなクリエイティブを支えるミシンや布をカットする機械に並んで、レトロなシューズや小物が飾られていたり、棚にピーウィーの人形が横たわっていたり。そんなアメリカンヴィンテージもかつて町工場だったこの場所にすっかり馴染んで、どこか海外のお店に来たかのよう。

ちなみに、店名の「ウポポ」とは、坐り歌を意味するアイヌ語。「老若男女が集える場所に」という願いの通り、若い方から子育て世代、そして子育てを終えて再び人生をエンジョイしている方たちまで、幅広い年齢層の方が集う。おひとり様も多いのは、ここの居心地の良さとパワフルなユーゴさんに会うと元気になれそうな気がするからかもしれない。

こだわりメニューにもポップさとかわいいを忍ばせて

手作りの塩麹や醤油麹を使ったヘルシーでボリューム満点のプレートや人気のフィッシュアンドチップス、ナチュラルワインの試飲会で出会って仲良くなったという豪徳寺のネパール料理店「OLD NEAPL TOKYO」にアドバイスをしてもらったというカレーなどフードメニューが充実! しかし、実はドリンクにも同じくらいこだわりが。酒屋でもある奥のワインセラーにおじゃますると、ユーゴさんがセレクトした海外のナチュールワインがずらり。ワインを選ぶポイントをお聞きすると、

「かわいい!センスがいい!がポイント。最近のナチュールはどれもハズレなしでおいしいし、ちょっとクセがあるものも、それはそれで楽しみ方があると思うから」

とユーゴさん。確かにどれもエチケット(ラベル)の絵柄が個性的で、つい”ジャケ買い”をしたくなってしまう。

手作り酵素ジュースもここの定番ドリンク。透明の瓶に仕込まれている姿もかわいらしく、このお店のラブリーさを一層引き立てる。使っているのは、外側の傷や形の歪さが理由でスーパーマーケットなどでは販売することができないエシカルフルーツ。以前から店主と親交があり、現在のお店の物件もユーゴさんが紹介したというご近所の果物専門店「東果堂」とのご縁もあって仕入れ始めたそう。苺の酵素シロップの仕込みをする側でお話をお聞きしていると、果物の甘い香りにうっとり。

「普段はあんまり甘いものは飲まないけど、酵素ジュースって作ってみたらかわいいし楽しいじゃない。ここは、オープン当初から小さいお子さんがいるお客さまがたくさんいらっしゃるのだけど、そういう方から酵素ジュースを作ってみたいっていう要望も多くて。ワークショップをきっかけにお店を知ってくださる方も増えたの。ワークショップでは、(傷んでいるのが)嫌だったら使わないでね、もし食べてみようと思えたらぜひ食べてみて、って伝えるの。だって、こういう柔らかくなったところって熟れていておいしいところだから」

そうして苺の柔らかいところを指ですくってぺろっと舐めて、「ほら、甘い!」と無邪気ににっこり。果物を漬けて瓶の中で10日〜14日発酵させると酵素シロップが出来上がる。濾過してシロップとパルプ(残り滓)ができるのだが、後者はそのままヨーグルトに添えてもおいしいのだそう。さらには、スパイスを加えて酵素ソースにしてお肉料理に添えたり、果物の種はお風呂に入れたり、余すとこなく使い切るのがユーゴさんの流儀。ポップでかわいい!の中に、細やかな気づきと暮らしの知恵。その絶妙なバランスと軽やかさが、ここの居心地の良さに繋がっている気がする。

届けたいのは自分を大切にするための布ナプキン

ユーゴさんは、もともと古着とオーガニックコットンを使った洋服をデザインしていた。そして、2003年からは「touta(トゥータ)」というブランドを立ち上げ、当時はまだ知る人も少なかった布ナプキンを手作りし、このアイテムの良さを広める活動をスタートした。そのきっかけは、自身の経験と病気の発覚だったと言う。

「もともと肌が弱いから、紙ナプキンと称される使い捨てナプキンを使うとかぶれてしまって。でも、“そういうものだ”と思っていたのね。そうしたら、長女を妊娠したときに子宮頸がんが発覚して。病院で情報を得たり調べたりする中でわかったのは、子宮頸がんはウイルス性だということ。次第に、肌がかぶれていると病気のためにもよくないと思うようになって、肌に当てるものの重要性をあらためて考えるようになったの。そうそう、知らない方が多いと思うのだけど、使い捨てナプキンのほとんどは、構成材料に自然素材から作られる材料ってほぼ使われていないの。それは、肌にやさしいとは言えないよね」

そして、そこからユーゴさんの布ナプキン開発がはじまった。海外から布ナプキンを取り寄せ、解体してどうやって作られているのか、どんな素材が使われているのかを研究したというのだから、さすが職人の子。

「当時、海外で使われていたものは、洗って繰り返し使える=エコという目的が主で、肌にいいものではなかったの。私が作りたかったのは、あくまで付ける人にとっていいもの。だから、素材にはこだわってオーガニックコットンにして。でも、まだ世の中的に布ナプキンがポピュラーじゃなかったから、なかなか理解してもらえなくて。それなら、めっちゃかわいいのを作るわ! って思って。だって、かわいいは正義だから!」

初期のtoutaの布ナプキンは、折りたたんで使うハンカチ型のものに加え、表地にカラフルな柄布を使ったスナップ付きのものもあって、見た目は生理用品というより女の子がときめく雑貨。ナチュラルな印象の製品が多い中で異彩を放っていた。しかし、2017年に「Pantyliners Organics(パンティーライナーズオーガニクス)」としてリブランディングすると、全てのアイテムを肌にやさしい素材へのこだわりはそのまま、真っ白のシンプルなもののみに。その大きな変化にもユーゴさんらしい熱い想いがある。

「自分の経血や下り物の状態を知るって、とっても大事なことだと思うの。そのためには、色をきちんと見なくてはならないから、布は白である必要がある。初期の自覚症状がほぼないと言われている子宮頸がんだけど、下り物量が増えたと言う経験者の友人も複数いて。自覚症状あるじゃん! て。そして、やっぱり大事な部分だし、皮膚から成分が浸透する経皮吸収率が最も高い部位だから、できるだけ安全でいいものを当てて欲しくて」

悲しみや大変な経験を軽やかな行動力に変えて

ユーゴさんが情熱をかけて作った布ナプキンは、2011年の東日本大震災の時に被災地の女性たちの元へ届けられた。その時、彼女は出張のため海外に滞在中だったが、大変な状況を知ってすぐに避難所に届けることを決めたと言う。

「東日本大震災の少し前に、親戚が住むクライストチャーチで地震があって、その時に下着を変えられない中で布ナプキンがとても役に立ったと叔母に聞いていたのね。だから、出張先でこの災害を知って、すぐに駆けつけることはできないけど何かしなくちゃと思って。TwitterやYouTubeで身近な布を緊急時にナプキン代わりにする方法を発信したり、当時のスタッフに、在庫をあるだけ全部、避難所に送ってもらえるように準備をお願いしたり。たまたまスタッフを増やそうとおもってお金を借りたばかりだったんだけど、それをこの時全部使っちゃってお金なくなっちゃったの(笑)」
そう言って、彼女はおちゃめに笑う。

ユーゴさんは、国際協力NGO「ジョイセフ※」と共にアフリカへ赴き、女性たちのために布ナプキンを作るワークショップを行うなどの支援活動に参加しているほか、温泉施設の爆発事故に巻き込まれ車椅子生活を余儀なくされたご友人と日々接する中で感じていたことやお父様の介護経験から着想して「車椅子体験ワークショップ」を行ったり、お客さまの要望で「味噌作りワークショップ」を企画したり。

震災での行動力もそうだが、誰かのためにパワフルに動くことができるのはなぜなのだろう。素朴に疑問を投げかけてみると、「まわりの期待に応えたくなっちゃうんじゃない?」とユーゴさん。

「私、わりと生い立ちが不幸なのよ(笑)。人よりいろいろな経験をしていると思うし、早めに気づくことができてよかったと思うの。だから、人によってはプラスに捉えられないようなことやネガティブな感情も受け止めたら、その後は『おっしゃ、ついてこい!』みたいな気持ちが生まれちゃうのかも。機会がないと知ることすらないこともあるし、1人ではできないこともあるでしょ。だから、そのきっかけになれたらいいなと思って」

昨年、「Pantyliners Organics」は、そんなユーゴさんの背中を見て育った二人の娘さんに事業継承された。5年前にブランド名は新しくなったものの布ナプキン事業としては来年2023年で20周年。このタイミングでどうして娘さんたちに?とお聞きすると、「だって、真面目なことを伝えるのに疲れちゃったんだもん(笑)」とユーゴさんらしい。

「年齢的にもう少しで生理を卒業すると思うし、今までかなりがんばって伝えてきたからそろそろいいかな、なんて思っていたら、長女が『いやいや、今からでしょ!』って言ってくれたの。彼女たちはずっと布ナプキンを使っていたわけではないけど、今はちゃんと理解してくれているし、若い人に向けて同世代なりの発信をしてくれていて。もちろんビジネスは初心者だから、教えないといけないことはあるけどね。私は早くアトリエで縫い物やモノづくりがしたい!」

代々受け継いだこの場所で、ひとつの事業が次世代へ。親から子へバトンは繋がれ、ユーゴさんは予定を決めすぎない旅のような自由さを纏って、またふわりと軽やかに動いていく。どちらへ向かうのかは、きっと出会う人たちや世の中の出来事や風向き次第。でも、そのアウトプットがなんであれ、ユーゴさんのアクションには、いつもとびきりの"かわいい"が添えられているはず。

※ 世界の妊産婦と女性の命と健康を守るために活動している日本生まれの国際協力NGO

UPOPO by touta inc.

 

住所:世田谷区若林5-25-4
電話番号:03-3412-4411
営業時間:12:00~18:00 ※イベントによって時間の変更あり
定休日:月曜

ウェブサイト:https://touta.org/
Instagram:@upopo.by.touta.inc

 

(2022/03/24)

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