ひろゆきさん・かなこさん

最寄り駅
千歳船橋

お互いに手仕事のものづくりを生業にしているひろゆきさんとかなこさん。二人が同棲する場所として、千歳船橋という街と現在の住まいを決めた背景には、どんな経緯があったのだろうか。それぞれの価値観から街の魅力が見えてくる。

文章・構成:加藤 将太 写真:田中 誠

住まい探しの時期に舞い込んだ幸運

誰もが住まいを探すうえで手はじめに考えるのは「家賃」だろう。そのときの経済状況に見合った家賃のなかで、立地、間取り、面積、設備、街や空間の雰囲気といった条件を総合的に判断して、自分が暮らしたい住まいを決めていく。新居の最寄り駅を小田急線千歳船橋駅に選んだひろゆきさんとかなこさんは、自分たちの経験をこう振り返る。

「付き合っていくなかで同棲しようという話になって、ダイニングと2部屋ある2DKの物件を探していたんです。最初は世田谷線の松陰神社前や上町方面も候補でしたけど、予算と広さが合わなかったんですよね。ちょっと高かったり狭かったりして」(ひろゆきさん)

「私たちはお互いミシンを使うものづくりをやっているから、2部屋のうちのひとつは作業部屋が欲しかったんです。私の職場は祖師谷大蔵、彼の職場は渋谷だから、その間にある田園都市線と小田急線、環七(環状七号線)と環八(環状八号線)の内側のエリアの中から千歳船橋のこの物件に決めました」(かなこさん)

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ひろゆきさんとかなこさんが住まい探しをしていた時期は2014年初頭。ちょうど消費税が5%から8%に増税される直前のタイミングだった。増税前の駆け込み時期は高額商品を買う人たちが増加。賃貸住宅市場もご多分に漏れず、古くなった賃貸物件をリフォームしようと物件オーナーたちも動き出した。そのため、二人が内見する部屋はリフォーム済みの物件が多く、外観は古びているのに室内はきれい、というような良い意味でのギャップ続きだったという。結果として入居を決めたのが、独特な味のある今の住まいである。

「2部屋とも洋室の物件が多くて、バランス釜のお風呂にも当たらなかったんです。僕らは、家も家具も歴史があって使い込まれた経過にグッとくるような、どちらかというと新しいものより古いものに惹かれるんですが、水回りが新しいというのはありがたかったです。30歳を過ぎたから言えることなのかもしれませんが、千歳船橋は上京したての頃の僕だったら、まず選ばなかったでしょうね。中目黒とか自由が丘、吉祥寺とか、もっとわかりやすいエリアで探していたと思います」(ひろゆきさん)

9年暮らした三軒茶屋を離れて

ひろゆきさんが上京して、東京暮らしを始める場所に選んだのは三軒茶屋だった。以来、千歳船橋に引っ越すまでの9年間を三軒茶屋で過ごした。

「最初は田園都市線の三軒茶屋駅と駒沢大学駅の間くらいの野沢という地域に住んでいました。そこに4,5年、その後は上馬に4,5年いましたね。上京する前は大阪にいて、3年間で2回引っ越していたけど、三茶は居心地が良かったんですよね」(ひろゆきさん)

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ひろゆきさんの職場は渋谷にあるオーダーデニムブランドのショップ。それ以外に個人の仕事として、友人・知人から注文を受けてバッグや革小物をつくっているが、上京したての当時はスタイリストのアシスタントとして修行していた。スタイリストの現場は朝早かったり夜遅かったりと時間が不規則なため、なるべく自宅に早く帰って少しでも睡眠時間を確保したかった。加えて、終電を逃しても自転車で帰れる、タクシーも安く上がるといった条件を考慮して、三軒茶屋に住まいを決めたのだという。その後は恵比寿にあるファッションブランドのショップに勤務。三軒茶屋は自転車で恵比寿を含め、渋谷、下北沢、中目黒、祐天寺などに20~30分の距離で行けるのが魅力だった。

「三茶暮らしの後半になると飲み仲間ができて、なおさら居やすくなったというのもありますね。上馬は学生時代の友人と一軒家をシェアしていたんですけど、お向かいのご夫婦が『近所で飲んでいるから来なよ』と誘ってくれたことがきっかけで、そこからご近所付き合いが始まったんです。いつからか10人単位の飲み仲間になって、今でも忘年会に呼んでもらっています。ちなみに三茶を離れたのは、ルームシェアしていた友人が結婚することになって、そこに彼の奥さんが引っ越してくるということで追い出されたんです(笑)。9年も住んだ街だから、引っ越しの撤収作業が終わった後に乗った東急バスの中が寂しかったですね。バックパックを背負って、『あぁ、この街から出ていくのか…』という感じがありました(笑)」(ひろゆきさん)

アトリエをとなり駅に構えて

一方でかなこさんの仕事は洋服のお直し。今は祖師谷大蔵にご自身のアトリエを構えているが、以前はそこが自宅を兼ねていた時期があるという。

「洋服のお直し屋をやろうと決めてから、10年になりますね。下北沢の飲食店でバイトをしながら、そこのお客さんや友人・知人に仕事をもらいながら始めたんです。自宅で直して届ける、というスタイルで。それでバイト先の閉店が決まったので、「お直しのお店をやってみよう」と思いました」(かなこさん)

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最初は店舗物件を探していたが、とても予算が見合わなかったという。そこで、住んでいた平屋をとても気に入っていたから、ここに看板を出してお店としてスタートしてみようかと思い直し、大家さんに相談したのだった。

「大家さんに看板を出す許可をもらって、住まいだった場所を新たにお店として見直した時に、改めていい家だなぁと気づけましたし、祖師谷大蔵にお店を出せてご近所の方たちや、通っていた祖師谷の飲食店のご紹介などで、新しいお客さんが頼んでくれるようになったことはとても嬉しかったです。しばらくすると、自宅兼アトリエという形が手狭になったので、弟を誘って住まいを喜多見に引っ越しました。5,6年は祖師谷に住んでいたのかな。その前は豪徳寺だったから小田急線界隈をウロウロしている感じですね」(かなこさん)

街を含めて住まいという感覚

さて、ものづくりの手仕事を生業にして、家具や雑貨も温もりを感じるものを選ぶ二人は、千歳船橋の街のどんなところが気に入っているのだろうか。気に入っているお店とあわせて、その印象を答えてもらった。

「奥の小道に素敵な個人店があって、そんな気になるお店が点々とある感じにそそられますね。千歳船橋には、ここ数年にオープンした個人店が多くて、ちょうどいいタイミングに引っ越せたのかもしれません。お店でいうと、まずは担々麺が美味しい『よつ葉』ですね。ここのメニューの「超級坦々麺」は独特のスープで病みつきになってます(笑)。引っ越した頃に知ったお店なので、『いいお店がある街でよかったね』と二人で喜んだのを憶えています。『よつ葉』はひとりでも行けるお店ですね」(ひろゆきさん)

「もうひとつは『endroll』というビストロ。見た目も素敵でワインも料理もすごく美味しいんです。お店の方の人柄もお客さんの雰囲気もすごく良くて、引っ越してきた頃は週1ペースで通っていました。今も定期的に行きますね。それから駅の北側にある『きのこの』。店にあるものがきのこモチーフのものばかりなんです(笑)。ここは居酒屋さんで、どれも美味しいんですけど、中華のメニューもあってご飯を食べにいく感覚でも行かせてもらってますね。夜遅くに帰ってきたときにも行けるうれしいお店です。紹介したお店はどれも居心地が良くて、千歳船橋エリアが全体的に良心的な価格だと思いますよ。たまに祖師谷大蔵に住んでいたときに通っていたお店にも顔を出しています」(かなこさん)

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忙しい二人は夜遅くに帰宅することが少なくないけれども、生活拠点となる街に外食に困らないルーティンをつくることができた。新しいお店は職場を行き来するときに見つけるか、お店の人たちから情報収集して開拓。そうやって、自分たちだけの千歳船橋マップをつくっている。

「三茶に住んでいた頃よりも人混みの多さを感じなくなりました。小田急線は千代田線とつながっているので、新宿以外に表参道方面にも行きやすいですし、僕は午前中遅めの出勤なので、電車に座れるようになったのは大きいですね。電車の中でどう過ごすかは大事だと思っていて、本を読める時間ができました。あとはバス一本で渋谷、田園調布、用賀方面に一本で出ることができますし、豪徳寺駅で世田谷線の山下駅に乗り換えることもできますからね。僕らは自転車で動くことも多いから、アクセスがかなりいい街だと思います」(ひろゆきさん)

「私にとっては、都心で働いている人たちが帰ってくる場所、ですかね。千歳船橋と祖師ヶ谷大蔵の駅で降りる人たちが多いんですけど、街に入ってくるとガヤガヤした感じがないんです。『どれだけ収納力があるんだろう?』と不思議ですね。自宅と職場が近い形で仕事をしたい人にもオススメだと思います。古い商店街のお店に新しく人が入ってきているので、住まいだけじゃなくてお店も探しやすいんじゃないかな」(かなこさん)

「引っ越してきてよかった」「できれば千歳船橋から離れたくない」と声を揃えてくれたひろゆきさんとかなこさん。家だけでなく好きなお店を含めた街を生活するための“住まい”だと思えるようになれたのは、年齢と経験の積み重ねとともに価値観が変わったから。そんな二人のように、あなたに合う住まいが見つかりますように。

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