NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT

山根敏史さん

最寄り駅
千歳船橋

環状8号線、砧二丁目の交差点から程ない位置に突如オープンした「NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT」。デンマークのアウトドアブランドのコンセプトショップは、なぜ著名なアウトドアブランドがひしめく都心ではなく、出店の地に世田谷の街を選んだのだろうか。オーナーの山根敏史さんがその理由と将来の構想を語る。

文章・構成:加藤将太 写真:永峰拓也

アウトドアショップの自然な出店エリアを求めて

小田急線千歳船橋駅と祖師ケ谷大蔵駅の中間あたり。さらに言うと、環状8号線の砧二丁目の交差点を10mほど祖師ヶ谷大蔵駅寄りに入った場所。そんな激しい交通量を記録する幹線道路と穏やかな住宅街の狭間に、際立ったコンセプトのアウトドアショップがオープンした。「NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT」である。



「NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT」は、店名にも冠されているデンマークのアウトドアブランド・NORDISKのアイテムを軸に、デザインと機能のどちらにも優れたギアとウェアを取り揃えている。オーナーは代官山のセレクトショップ「ROOT」を経営し、F/CE.®やso farといったブランドを手がける山根敏史さん。アウトドアショップといえば、明治通りや表参道周辺に軒を連ねているが、「NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT」はなぜ世田谷の西側に出店を決めたのだろうか。

「たしかに商圏として都心への出店は魅力的だけど、なぜアウトドアショップが都心にお店を出すのか。僕はそこに疑問があって。アウトドアショップは、自然をある程度感じられたり、キャンプに行く途中に足りないモノを買えたりする場所にあるほうが自然だと考えていて。この辺りは砧公園、馬事公苑、芦花公園もあるから自然もイメージしやすいし、キャンプに出かけるときに便利な高速道路(中央高速道路・東名高速道路)の近くにある。だから、お店を出したんです。僕はキャンプに行くとき、高速道路に乗る直前に、『しまった、アレ買い忘れた…』となることがあって。間に合わせのモノをホームセンターで買っても、後悔するじゃないですか。土曜日は朝8時オープンにしているから極端な話、手ぶらで来ても必要なものが買える品揃えになっていて」


山根さんは世界中から支持を集めるインストバンド・toeのベーシストでもある(「NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT」の内装デザインは、バンドメンバーの山㟢廣和さん(Metronome Inc.)によるもの。バンドの機材車移動を考慮しても、中央高速道路と東名高速道路が近くにある世田谷区砧は、全国各地のライブツアーに繰り出す際にも便利な立地だ。しかも、お店のある砧周辺は、約1年半前に家族4人で引っ越してきた生活圏。当初は道具という共通項から、道具屋街である合羽橋周辺に出店の目星を付けていた。蔵前に倉庫物件を見つけたものの、より自分の理想とアウトドアユーザーの本質的な利便性を求めて、環八沿いで物件を探すことに決めたのだった。

「NORDISKのテントが建てられることが絶対条件で、1番大きいモデルを建てるには天井高が4.5メートルも必要なんですよ。狙っていたのは環八沿いのファミレスの居抜き物件だったけどダメでした。この辺りは公園がたくさんあって家族客が多いから、ファミレスが撤退しないんですよね。次は自動車ディーラーの居抜き物件を探したけど、これもまったく空いていなくて(苦笑)。お店の前の通りは代官山にある事務所の通勤路なんですけど、ある日、歩いていたら「入居者募集中」の貼り紙が出ていて。内見に行ったら想像以上に広くて、天井高が4.8メートルもあるんですよ。しかも全面ウィンドウ。物件のスペックは申し分ないし、自分のコンセプトにもマッチしていたけど、正直かなり不安でした。矛盾しているかもしれないけど、自分は生活圏で買い物をしようと思ったことがないから(苦笑)。それでも、ここに出店するのは今のアウトドア・ファッション業界から考えても新しいことだし、賭けに出ようって」

NORDISKの世界観を表現できるお店づくり

NORDISKのプロダクト、その代表的なものは軽量かつ撥水性・透湿性・保温性・耐久性に優れたテクニカルコットン素材を採用したテントだ。そもそもNORDISKユーザーである山根さんだが、なぜ自身が愛用するアウトドアブランドに、コンセプトショップのプロデュースという形で関わることになったのだろうか。


「NORDISKの代表を務めるエリック・モーラーと5年くらい前に知り合って。そのときにエリックが「日本にお店を作りたい」という話をしてくれたんです。日本ではキャンプマーケットが盛り上がってきたところで、NORDISKはブランドストーリーが深いし、プロダクトのデザインも機能も優れているから、また違う形で独自のキャンプカルチャーを発掘できると考えて、それをエリックに提案したら気に入ってくれて。それからエリックとコミュニケーションを取り続けて、日本でNORDISKのお店を出すプランが具体的になってきました。僕はエリックのNORDISKに対する思い入れや製品のクリエイティビティに共感しているから、日本でお店をやるならば、それを反映させたお店にするべきだと思った。でも、NORDISKはアイテムのラインアップが豊富にあるわけじゃないんです。だから、『ROOT』が洋服や道具をセレクトするという関わりをとって、NORDISKの世界観を表現できるお店にしようと」



NORDISKのプロダクト以外には、Mountain Research、White Mountaineering、nanamicaなどの都会と自然を往復できるウェアをセレクト。ギアはNORDISKと好相性のヨーロッパのブランドをメインに置きながら、NY発のアウトドアブランド・BEST MADE Co.の斧やテーブルウェアなども豊富にラインアップ。これほど強い個性のプロダクトを集めることができたのは魅力的だが、空間の中心はあくまでもNORDISKだ。最低でも約10万円もするコットン素材のテント、その商談シーンは自動車ディーラーのそれとよく似ているという。

「2時間くらい、店内で悩むお客さんもいますよ。比較的多いお客さんは、お父さんと子どもの組み合わせですかね。子どもがテラスでゲームをやっている間に、お父さんが食いつくようにテントのディテールを見ていて、そこにスタッフがiPadのアプリを使いながら組み立て方を説明する。ひと通り終えると、「ちょっと嫁に相談してきます」という感じ。だから単価は違うけど、車のディーラーで奥さんを説得している映像とすごく近いなと思っていて。自分も嫁の決裁が要る気持ちはよくわかるから(笑)。NORDISKのテントにはオプションがいろいろあって。室内を1LDK, 2LDKにできるオプションを追加していくと、30万円とかになるんです。ここのスペースには全部のテントを建てられないから、近い将来、住宅展示場みたいなアイデアで近くに全部のモデルを試せるショールームを作りたいなと考えていて」

コンセプトをさらに強める、北欧のコーヒーと伝統的なデニッシュドッグ

アウトドアグッズの販売だけでなく、コーヒーとデンマーク由来のデニッシュドッグを提供しているのもNORDISKの世界観を演出するひとつのツールだ。コーヒーはノルウェー発・FUGLEN COFFEE ROASTERSの豆を使っている。

「北欧の人たちって日常的にフルーツを食べるからなのか、コーヒーも酸味の効いたロースティングをするんだけど、そのアプローチを取っているのがFUGLEN COFFEE ROASTERSでした。実際に東京にあるFUGLENの焙煎所でトレーニングを受けて、エスプレッソマシーンも同じものを使っています。これは自己満足だけど、この辺りで美味しいコーヒーを飲めるお店を知らないから、そんなお店が家の近くにあったら最高だなって(笑)」



デニッシュドッグのソーセージは参宮橋のレストラン「LIFE son」から仕入れている。デニッシュドッグを提供したいという構想は当初からあったものの、デンマークで味わった本場の味を再現できる、あるいは、それを超える美味しさのソーセージに出会えなかった。理想のソーセージとの出会いは予期せぬタイミングで。相場正一郎さんがオーナーシェフを務める「LIFE son」をランチ利用したときのことだった。

「『LIFE son』のソーセージを食べたら、めちゃくちゃ美味くて。そのときは相場さんのお店だとは知らなかったんです。それで後日、ソーセージだけを卸してもらえないかという相談を相場さんにさせてもらったら、初対面なのにフィーリングが合って。僕らから細かくリクエストをしたり、逆にアドバイスをいただいたり、何度か試食して、今お店で提供している味にフィックスしました。デニッシュドッグは普通のホットドッグみたいにソーセージが上に乗っていないから、運転しながらでも食べやすいんですよ」

アウトドアグッズを売るだけでなく、地域に根付いた活動を

砧で暮らし、砧でショップを経営する山根さんは、実は世田谷歴が長い。名古屋から上京してきて東京暮らしを始めた街は目黒。友人と1年半くらいルームシェアをした後に引っ越した街がなんと千歳船橋だった。まさか、かつて自身が暮らしていた街にショップを構えることになるとは。当時は思いもしなかっただろう。

「千歳船橋には4年くらい住んで、街自体をすごく気に入っていました。ごちゃごちゃしていないし、いつか自分に家族ができたら、また世田谷に住みたいと思っていたんです。松陰神社前にも住んだことがあるし、長男が生まれてからは野沢に引っ越して、次男が生まれてから砧という感じですね。世田谷は地域によってカラーが全然違うのが面白い。松陰神社前には独自のローカルカルチャーが発展しているし、千歳船橋にはファミリー層が多くて落ち着いた印象がある。今は仕事とバンドが忙しくてなかなか休日がないけど、休みの日は家族で砧公園に出かけてゆったり過ごしています。この辺りは保育園や公園が多くて、ファミリー向けの環境が整っていますね」



NORDISKはシルケボーというデンマーク第二の都市にヘッドクォーターを構えている。シルケボーは日本でいう那須や軽井沢のような避暑地にあたり、NORDISKはそこでトライアスロンのレースを開催し、アウトドアというフィルターを通した地域活性の活動に取り組んでいる。山根さんも「NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT』として、世田谷の街に根付いたアクションを起こしていきたいと考えているという。

「ここは三峯神社が近くて、年に1回盆踊りがあるんだけど、砧町町会とか地元の寄り合いとワークショップや夏祭りを企画してみたいですね。この物件は重飲食がOKだから、テラスでバーベキューもできるんですよ。僕らはお店をクローズして、屋台とかをやって、地域の子どもたちが楽しめる出し物を用意する。ウルトラマン商店街がある祖師ケ谷大蔵は円谷プロ所縁の街だし、砧には東宝のスタジオもあるから、キャラクターのイベントを企画するのも面白そう(笑)。それをNORDISKに落とし込んでクリエイティブにやりたい」

今の時代、お金を投資する対象がファッションや音楽ではなく、スマートフォンアプリへの課金だったりすることも珍しくない。テクノロジーが発達したことで、どの業界もインターネットありきの仕事になってきている。時代はデジタル化を辿る一方だけど、キャンプに出かけること、アウトドアを楽しむことは、いつだってアナログな行為だ。目の前のモニターや手のひらに収まったスマートフォンのディスプレイに夢中になるのはほどほどに。『NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT』に立ち寄り、自然を楽しむ準備をしよう。世田谷区砧二丁目の交差点近くから、新しいアウトドアカルチャーが生まれようとしている。


NORDISK CAMP SUPPLY STORE by ROOT
住所:東京都世田谷区砧2-21-17
電話番号:03-5429-6909
営業時間:11:00~19:00、土日祝10:00~19:00
定休日:月曜
ウェブサイト:http://root-store.com/nordisk/
 
(2017/06/29)

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