BARBER SAKOTA

迫田将輝さん

最寄り駅
下高井戸

京王線と世田谷線のハブ駅として親しまれる下高井戸。昨年この街にオープンした「BARBER SAKOTA(バーバーサコタ)」は、セット2面のシンプル&クリーンな空間が印象的なお店で、感度の高い若者からお年寄りにも人気の理髪店だ。世界的な盛り上がりを見せるバーバー・カルチャーとも緩やかにシンクロしつつ、あくまで「街の床屋さんでありたい」と語る迫田さんが理想とするバーバーの在り方とは?

文章:上野功平 写真:宮本陽平 構成:加藤将太

今も昭和のエネルギーが息づく下高井戸の魅力

下高井戸駅のコンコースから西口を降り、昭和の雰囲気が残る商店街を抜けていくと、左手に小さなフラワーショップが目に入る。その真向かいに位置するのが「BARBER SAKOTA」だ。すぐ近所には区立松沢小学校もあり、時間帯によってはとても賑やかでエネルギーを感じる場所でもある。

「もともと池ノ上に出店する予定だったんです。近所に知り合いのお店もあったし、安心感もあっていいなあって思っていたんですけど、大家さんとの折り合いがつかなくなりご破談に…(苦笑)。その3,4ヶ月後くらいに再びゼロから探しはじめて、ふとネットでこの物件を見つけました」

場所ありきではなく、物件ありきで世田谷エリアに辿り着いた迫田将輝さんだが、「あえてメジャーとは外れたエリアでやりたかった」というだけあって、結果的には満足しているそうだ。これまで縁もゆかりもない下高井戸ではあったが、いざ足を運んでみたら、すぐにこの街を気に入ったという。

「商店街にはずっと昔から営業しているお店も点々とあるけど、新しいお店もちょこちょこオープンしているんですよ。そのバランス感が自分の思い描いている理想と近いのかなって。カルチャー寄りのお店もあって、近所に『トラスムンド』っていうレコードショップがあれば、ウチのすぐ先では中目黒界隈でよく遊んでいる知人がクラフトビールのお店(HATOS OUTSIDE)をやっていることも、僕の中では大きな決め手になりましたね」

世田谷は東京とは思えないほどゆったりとした空気が流れているエリアだが、マンツーマンで営業する「BARBER SAKOTA」は常に予約がびっしり。そんな多忙な日々において、お客さんとの会話は貴重なインスピレーションになっている。

「施術中にお話を聞いていると、ご年配の方でも音楽関係の仕事をやられていたり、発見が多くて面白いですね。あとは、家族と一緒に住んでいて、渋谷とか表参道まで髪を切りに行くのはしんどいというお客様には、ウチがちょうどいいみたいです。それこそキメ過ぎず、抜くところはきちんと抜ける人たちというか。きっと、みなさんオンとオフの切り替えが上手なんでしょうね」



生涯現役を貫くために選んだ、理容師の道

今年で30歳を迎えたばかりだという迫田さん。床屋のオーナーとしては比較的若いほうだが、世代的には美容師ブームが重なっていたはずだし、近年のようなバーバー・カルチャーの流行も無かったはずだ。では、なぜ美容師ではなく理容師の道を選んだのだろうか。

「特にコレという理由は無かったんですけど、美容師の専門学校を見に行った時に『なんか違うな』って(笑)。でも、すぐに就職したかったから大学には行きたくなくて、その専門学校が理容も教えていたので、そっちに惹かれていたのは確かですね。『自分にはこっちのほうが合いそうだな』って」


直感的な判断ではあったが、そこで出会った理容科の先生に「おじいちゃんになっても続けられるよ」と言ってもらえたことが、迫田さんの背中を押した。事実、男性の美容師は寿命が短いとも言われ、年配の美容師は第一線を退いて経営者になるケースが多いため、生涯現役を貫くのであれば理容師という選択は正しい。

「自分も当時は美容室に行っていましたが、なかなかおじいちゃんで美容師をやってる人っていないじゃないですか。『年を取ったらどうするんだろう?』って、やたらと先のことばっかり考えていましたね。カラダが動く限りは、一生続けられる仕事がいいなあっていうのは漠然とあって。おじいちゃんになっても男性の髪の毛は切れるけど、おじいちゃんが若い女性の髪の毛を切っているイメージって沸かないですよね(笑)」


流行にとらわれず、自分だけがやれることを突き詰める

理容師の専門学校を卒業後、何店舗かで勤務を経験した後、飲食の仕事をしていた時期もあるという迫田さん。やがて理容師の道に舞い戻ると、近年のバーバー・カルチャーを先導したニューヨーク発の複合型ショップ、「FREEMANS SPORTING CLUB(フリーマンズ スポーティング クラブ)」と運命の出会いを果たすことになる。

「当時は地元の東村山にある1,000円カットのお店で働いていたんですけど、知人から『こんなお店ができるよ』って教えてもらって。しばらくの間は、1,000円カットのお店と表参道の『フリーマンズ』を行き来していましたね。そういうのも面白いスタイルというか、そんなことをやってる人、他に誰もいなかったですから。その後、東村山のお店を辞めて『フリーマンズ』でフルタイム勤務になりました」



ホテル業界の異端児「エースホテル」もバーバーやコーヒー・スタンド、レストランを併設した空間づくりで人気を博しているが、日本において『フリーマンズ』や『ロンハーマン』の成功以降、多くのアパレルショップがサードウェーブ系のコーヒーブランドとコラボしたり、ショップ・イン・ショップ的なお店を提案するようになったことは言うまでもない。そういったムーヴメントの先駆けとも言える『フリーマンズ』で経験を積んでいながら、あえて地に足の着いた「床屋」に絞ったのはなぜだったのか。

「昔からいろいろなことに興味はあったんですが、『フリーマンズ』での3年間があったからこそ、『ちょっと難しそうだな』と痛感したというか。仲のいい友人と一緒にやるのもアリだと思ったんですけど、それぞれ資本があって、設備も整っているのに、それを一緒の空間にまとめてしまうというのはお互いの“個性”を殺してしまうのかなって。やっぱり、自分の手の届く範囲で収めるのがちょうどいいんでしょうね。そして、流行に乗っかるのではなく、自分だけが専門でやれることを突き詰めていきたい」

常に自然体だけど、職人気質。迫田さんのこだわりは、白を基調としたお店づくりにもダイレクトに反映されている。

「当初はバーバーというより、昭和の床屋さんをイメージしていましたね。それこそ、おじいちゃんとおばあちゃん夫婦が白衣で髪の毛を切っているような。だから、ホントは何も無くていいとすら思っていたんですよ。ただ、『それだとちょっとつまらなくない?』っていう意見もあり、内装を手がけた友人がアレンジしてくれました。彼はインダストリアルとか今っぽいテイストが好きで、僕は極限まで削ぎ落としたシンプルなものが好きだったので、そのバランスが取れて今の雰囲気に落ち着いたんだと思います」

お客さんと共に成長できるのが、「街の床屋さん」のあるべき姿

池ノ上のセレクトショップ「MIN-NANO」の中津川吾郎さんがデザインを手がけたロゴTシャツや、オリジナルのスケボーデッキ(ユルい「サインポール・サコタくん」のイラストがナイス!)など、ファッション感度の高い人々からも注目を浴びている「BARBER SAKOTA」。今後はどんなお店を目指していきたいのだろうか。

「バーバーをどうこうしたいっていう想いは無いんです。直感的にやりたいことと、単純に面白いことができればいいなっていうぐらいで。そういう意味では、特にシーンを変えてやりたいとか、バーバー・カルチャーを盛り上げたいっていう野望があるわけでもない。もしホントに盛り上げたいんだったら、もっと東京の中心部でお店をやっているだろうし、スタッフも店舗数も増やすと思うんですよね」



決して背伸びはせず、自分の手が届く範囲を幸せにしながら、お客さんと共に成長していきたい。そんな迫田さんの想いが伝わってくるからこそ、「BARBER SAKOTA」は祖父から父親へ、父親から息子へ、親子3世代のお客さんから愛されているのだ。これこそ、「街の床屋さん」のあるべき姿なのかもしれない。

「あんまりブームとか、流行りって言われたくないんですよ。一度持ち上げられてしまうと、あとは下がっていく一方ですからね。それもあって下高井戸なのかなあって思っています。ありがたいことに、今は毎日忙しく過ごさせてもらっていますが、昔と違って深く考え過ぎないようにしてるんです。床屋さんとしてもただ数をこなすんじゃなくって、昔から来てくれているお客さんたちを大切にしていきたいですね」

かつて理髪店/バーバーは、大人たちの社交場だったそうだ。そして子どもたちにとっては、家庭や学校以外で大人たちと触れ合える通過儀礼でもある。セット2面の小さなお店だが、いつか両腕にタトゥーがびっしり彫られたお兄さんと、近所の野球少年が隣同士になって会話する日が来るかもしれない。それはきっと、“多様性”なんて言葉では言い表せないほど素敵な光景となるだろう。

BARBER SAKOTA
住所: 東京都世田谷区赤堤4-42-19
営業時間:10:00〜20:00(予約優先)
定休日:月曜
ウェブサイト:http://www.barber-sakota.com/

Instagram:@barbersakota

Twitter:@MASAKISAKOTA

 
(2017/10/17)

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