Paddbre

柳川さゆりさん・重谷優さん

最寄り駅
経堂

焼き菓子と麹を使ったごはんのお店「Paddbre(パドブレ)」。Paddbreとは、フランス語で「つなぐ」という意味だ。小田急線「経堂」駅北口から徒歩3分ほど。一軒家を改装した小さなお店の入り口を入ると、柳川さゆりさんと重谷優さんがとびきりの笑顔で迎えてくれた。これまでの歩みや、店名へ込めた想いをうかがった。

文章・構成:神武春菜 写真:川村恵理

出会って間もなく、二人で描きはじめた夢

さゆりさんと優さんは、東京農業大学の学生時代に出会った。約8年前になる。栄養学を学び、将来は「食」に関する仕事をしたいと考えていた二人は、自然と「一緒に何かできたらいいね」と話していたという。ただ、それはあくまで「いつか」の話。自分たちは、「食」とどう関わっていきたいのか――。卒業後、さゆりさんはフードスタイリスト、優さんは病院の食事を担当する栄養士として、まずは一歩を踏み出した。

「子どもの頃は、自分の気持ちを積極的に表現するタイプではなかったんです。でも、大学でダンスサークルに入って、自分を表現することの楽しさを知りました。好きなようにステップを踏んでもいいし、振り付けも自由につけていい。そんなふうに、自分のやりたいことを表現できて、人と人を『食』でつなぐことができたらいいなと思って、フードスタイリストのアシスタントになりました。でも、自分がどんな料理を作っていきたいのか、なかなか定まらない。ごはんなのかスイーツなのか…。独立するときも、まだ悩んでいましたね」(さゆりさん)

「私が大学で栄養学を学ぼうと思ったのは、母が体調を崩したことがきっかけでした。からだにとって、『食』がいかに大切か身をもって感じたんです。『食』で健康を支えたいという想いから、栄養士として病院で働く道へ。健康のことを考えて栄養成分を計り、和食を中心に毎日たくさんのごはんを作りました。ただ、学ぶことがいろいろある一方で、栄養成分だけじゃなくて、毎日の食事がもっと楽しくなるごはんを作ってみたいという想いがふくらんできた。イタリアンレストランでのアルバイトを通じて、飲食業の楽しみを知ったことも大きかったと思います。これから『食』とどう関わっていくか、すごく迷っていました」(優さん)

ヨーロッパへ、二人で放浪の旅へ出発!

3年間働いたのち、二人は偶然にも同時期に仕事を辞める。そして、一緒にヨーロッパへ放浪の旅に出た。ヨーロッパは、「二人で行けたらいいね」と話していた場所。旅に出れば、自分がやりたいことがはっきりするかもしれない。二人とも、そんな想いを携えて出発した。約1か月間、イタリア、フランス、ドイツにあるレストランやパン屋、スイーツ店を歩き回った。

「フードスタイリストのときは、フードをメインに作っていたけれど、ヨーロッパをめぐっていると、焼き菓子をやっていきたいという気持ちがはっきりしてきました。フードだとたいしたものは作れないけれど、焼き菓子だったら、自分が作りたいものを表現していけるような気がしてきたのです」(さゆりさん)

「お店を訪れるたび、『いらっしゃいませ』じゃなくて、『こんにちは!』って、とびきりの笑顔で挨拶をしてくれて、『この厨房を見て!』とか、『この窯を見て!おいしいよ!』ってお店の人が教えてくれる。当たり前かもしれないけれど、商売じゃなくて、そうやって『食』を通じて人と関わっていく姿に衝撃を受けました。心からお店を愛して、お客さんにまっすぐに届けようとするエネルギーにふれ、やりたいことに必死になる生き方を選ぶって、すごく素敵だと思った。私も、作ったものをその場で出して、お客さんの顔が見える場所、お客さんと関わる場所を作りたいって、はっきり分かりました」(優さん)

帰国後、さゆりさんはカフェで焼き菓子の製造・販売をはじめ、優さんはフレンチレストランで飲食業を一から学んだ。5年間、それぞれに忙しく働くなかで、休日には二人でファーマーズマーケットに出店したり、ケータリングの仕事もしたりするようになり、ユニット活動が自然とスタートした。

「ユニット名つけちゃう?って話しているときに、私が『Paddbre(パドブレ)』という名前を提案しました。お店を持つなら『Paddbre』がいいなって前から考えていて、優ちゃんに伝えたら、『最高だよー!』って気に入ってくれて、即決!」(さゆりさん)

Paddbreとして活動を続けていると、二人だからこそできることがたくさんあると気がついた。新しいレシピも、人との出会いも、不思議なくらい広がっていく。学生時代に描いた「いつか」は、いつの間にか、「いま」になっていた。

二人でお店を開きたい…。そんな思いが強くなりはじめていた2017年の年末、いまの物件に出会う。さゆりさんが働いていたカフェのお客さんが、二人の夢を聞いて、なんと自宅を店舗として貸してくれるというのだ。

「タイミングがよすぎて、ついていけないくらいでした。でも、オープンに向かって進むことに迷いはなかった。勤めていたお店を2018年5月までとお互いに決めて、開店準備を進めていきました」(優さん)

「感覚的」という優さんがイメージするものを、かたちにしていくのが「行動派」のさゆりさんだという。開店準備も着々と進み、2018年6月19日にオープンした。

毎日食べたくなる、気どらないおいしさを

深いブルーの壁紙に、キュートな色の調理器具がそろったキッチン。なんだか日本じゃないみたいだ。どこかの国の小さな村にある、可愛らしいお店の雰囲気をまとっている。お菓子はテイクアウトができ、テーブル席でゆっくりと食事もできる。


まずは、さゆりさんに焼き菓子を作るときのこだわりを聞いた。

「『毎日食べてもらえる焼き菓子』がテーマです。家とかで寝そべってのんびりと、簡単に、どこでも食べられるお菓子。ある日、お客さんから、『食べたらね、イギリスの田園風景が浮かんだわ』って言ってもらえたことがありました。自分のお菓子を食べて、そんな風景が浮かんだら嬉しい!気取ったものではなくて、映画のワンシーンにさりげなくうつってくるようなお菓子を作っていきたいと思います」(さゆりさん)

スパイスクッキーやプレーンクッキー、キャロットケーキ、アップルタタンなど、毎日ずらりと焼き菓子が並ぶ。キッシュやコンフィチュードも人気だ。ふっくらサクサクに焼き上がったプレーンクッキーをほおばると、素朴な甘さに思わずほおがゆるむ。いつでも食べられるように、ポケットに入れておきたい!


「優ちゃんと一緒じゃなかったら生まれていないレシピもたくさんあります。こないだは、優ちゃんがパイナップルを使っているのを見て、次の日にパイナップルを使ったお菓子を作ってみた。毎日、さまざまな食材で料理を作る優ちゃんの影響か、使ってみたい素材が増えて、組み合わせたりするのも楽しくなりました」(さゆりさん)

優さんが麹を使ったワンプレートを作ることにしたのは、お母さんの影響が大きい。

「もともと、母がお味噌や酵素ジュースを手作りしていました。母が体調を崩してしまったときに家族みんなで食事を見直し、麹を使った料理を積極的に日々の食事に取り入れてみたのです。そしたら、私自身の体温が上がって、からだにすごくいいということを実感しました。病院で働いていたときに、〈からだにいいもの〉と〈おいしいもの〉がつながるところを目指したいと思っていたので、麹を使った料理をお客さんに食べてもらいたいと思いました」(優さん)

この日のメニューは、食前酵素ジュース、お味噌汁、玄米と小豆ごはん、だし巻き卵、鶏ネギ味噌、甘酒酢の物、とろろしいたけ、サラダ。

甘酒や塩麴が素材の旨味をぐっと引き立てる。甘みや塩分もちゃんと感じるけれど、まるみがあってやさしい。お味噌汁は、自家製のお味噌の風味と香りがしっかりとしていて、からだに沁みる…。

野菜は、優さんのお父さんが完全無農薬で育てたものもよく使っているそうだ。野菜の肥料には、酵素ジュースを作るときに出た搾りかすを使用。家族みんなが「食」を大切にしていることが強く伝わってきた。


「このプレートを食べたら、からだに何かしらのいいアクションが起きてほしいなって思っています。『食』は、自分たちのからだを作るもの。かしこまった感じではないのですが、気持ちのこもった料理を、毎日食べてもらいたいです」(優さん)

二人だから、これからも夢を紡いでいける

オープンして間もないが、店内がお客さんでいっぱいになることもしばしば。焼き菓子は、午後には売り切れてしまうことも多い。

「今までは、一人で作って一人で販売するというのをやっていたので、優ちゃんの知識が入ることで、できることの可能性が何倍にもふくらむすごさを感じています。私だけだったら、やりたいことがあっても一年後になってもできてないと思う」(さゆりさん)

「わたしは、飲食業をしてきたといっても厨房にいることが多かったので、お客さんと直接接することは少なかった。なので、さゆりちゃんから、接客に関してものすごく勉強させてもらっています。わたしは、つい、食べ物にコミットしすぎちゃって、お客さんの立場から物ごとを見ていないことが多かったなって…。さゆりちゃんが気づかせてくれました」(優さん)

「ただ、優ちゃんと毎日反省会をしています。店内でのお客さんの流れをうまく作れなくてお待たせしてしまったり、それぞれの役回りをフォローし合えなかったり…。お互いにないものを補い合いながら成長していきたいと思っています」(さゆりさん)

「ときどき、営業中でも反省会をはじめちゃうよね(笑)」(優さん)

性格は「真逆」。でも、好きなものは「同じ」と話す二人。そして、「焼く料理が得意」なさゆりさんに対し、「煮る料理が得意」という優さん。得意分野を生かしながら、それぞれの夢を柔軟に行き来し、二人の夢をつなげていく。

「そうそう!」と、お互いの想いを確かめるように、取材中に何度もうなずき合いながら話す二人を見ていると、思わずこちらも笑顔になる。

「お互い頑固なんです。でも、大事にする部分がちょっと違うから、尊重し合える。『いいんじゃない?』って、すんなり決まることが多いかな」(優さん)

お話しを聞けば聞くほど、店名がぴたりとくる。二人がこれからつなげていく毎日には、どんな時間が流れているのだろう。そして、ひとくち食べれば、誰もがそんなおいしい時間を一緒に過ごすことができる。

Paddbre

 

住所:東京都世田谷区経堂2-4-14

営業時間:焼き菓子 11:30~17:30(売り切れ次第終了)

カフェ 11:30~18:30(LO 18:00)

定休日:日曜日、月曜日

 

Paddbre Instagram

焼き菓子 https://www.instagram.com/bake.paddbre/

カフェ  https://www.instagram.com/cafe.paddbre/

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