TOKYO DANCE.

土居健さん

最寄り駅
駒沢大学

学生時代から”古いもの”が好きだったという土居健さん。古道具屋「TOKYO DANCE.」をオープンしたのは、1年半前の25歳の時だ。最寄り駅から徒歩15分とやや距離があるにも関わらず、土居さんが仕入れる古道具との出会いを楽しみに、ひとり、またひとりとお客さんがやってくる。「TOKYO DANCE.」の魅力をもっと探りたくて、土居さんにお話しをうかがった。

文章・構成:神武春菜 写真:赤澤昂宥

“ガラクタ”と言われても、自分の目を信じる

6月。雨上がりの日差しが、窓際に並ぶガラス食器や小さなオブジェをキラキラと照らす。棚や額縁、籠、それから…正直、何かわからないけど気になる!
そんな古物たちが、店内を埋め尽くすように並ぶ。


牛舎で使用されていた大きなミルク入れ、診療所や靴工場で見つけた棚、刺繍工場から譲り受けたシルクスクリーン版など、気になった商品の背景を訪ねてみると、意外な仕入れ先に驚く。

「古道具屋の世界観を作るのは、どう集めて、どう並べるかにかかっています」

やわらかな笑顔で教えてくれたのは、店主の土居さんだ。仕入れから陳列、販売まですべて一人で行っている。

ユニークなラインナップの秘密は、独自の仕入れ方法にある。古道具屋の多くが、市場で商品をそろえるなか、土居さんは、建物の解体現場にも出向き、現場から直接仕入れているのだ。

「解体現場に行くと、市場には浮いてこないものに出会うことができます。ただの鉄のかたまりとか、何かの大会の景品(?)とか…。“ガラクタ”と言われてしまうものかもしれません。でも、自分の目で見て、『これ、誰かの家に持ち帰ってほしいな』って感じる魅力的なものがある。そうやって意図していないものを発掘できた瞬間が、すごく楽しいですね」


「TOKYO DANCE.」のインスタグラムを見たり、こうしてお話をうかがっていると、土居さんがお店作りを楽しんでいることがすごくよく伝わってくる。若干25歳で、古道具屋をオープンさせるに至った道のりを聞いてみた。

古道具屋で見習いとしてスタート

土居さんが古道具の魅力にとりつかれたのは、大学生の時。もともと古着が好きで、当時通っていた古着屋のスタッフから、「古いものが好きなら、うちの旦那が古道具を扱うお店をしているから行ってみたら?」と紹介され、訪れた古道具屋で衝撃を受けた。

「古道具だけでなく、お店の空間、そこに広がる世界観がかっこよくて。買いたい、集めたい! と思うようになって、骨董市へ出かけるようになりました」

大学4年生の時から、その古道具屋でアルバイトを始め、大学を卒業後、そのまま見習いとして勤務。市場での仕入れ方、仕入れた古道具の洗浄、修繕、陳列法など、ボスの術を見て、学んだ。

「ボスは、すごくストイックにお店の世界観を追求する人でした。商品の並べ方や家具の直し方のアイディア、バランス感覚、すべてに長けていて、すごく刺激を受けました」

いつか、自分も古物商をやりたい。そんな思いがふくらんでいった。


「でも、僕、どんくさくて…。仕事のミスも多くて、とにかくよく怒られていました。その都度、『やらせてください。がんばりたいです』と懇願していたんですが、いよいよ言えなくなるほど失敗を重ねてしまって…。心が折れて、ついに辞めることにしたんです」

見習いとして働いて1年8ヶ月。
「辞めます」と伝えて、お店からとぼとぼ歩いて帰った当時のことを思い出し、土居さんはちょっと苦い表情をのぞかせた。

でも、いつか古道具屋を開きたいという気持ちは消えていなかった。ただ、とにかく家の家賃を払わなければと、土居さんはすぐに日雇いの仕事を始めた。倉庫作業や荷物の搬入作業、解体現場で単管を運ぶ日もあった。

「古道具屋の仕事から、一見遠ざかったように見えるんですが、いまにつながる経験もできて楽しかったですよ」

例えば、解体現場の作業の流れを覚えることができた。一日のタイムスケジュール、作業員の動き方、物の持ち方、どこにいれば作業のじゃまにならないかなど、現場に入ってこそ学べることがたくさんあった。それを知らずに、いま解体現場に仕入れに行ったら…土居さんいわく「ブチ切れられているでしょうね(笑)」。

週に5日、みっちり働いて、週末は骨董市へ通ったり、出かけた先で解体現場に置かれためぼしい家具を見つけたら「買わせてください」と頼んだりして、古道具をコツコツと集め続けた。
半年くらい経つと、家の中は古道具でいっぱいになった。

「テーブルを3つ重ねて置いていたし、部屋を歩けば釘を引っかけてパジャマに穴が空いたこともありました」

土居さんは、イベントスペースを借りて、展示販売を企画した。会場を探して見つけたのが、現在「TOKYO DANCE.」がある場所。当時はギャラリーだった。そこで4日間の展示販売を終えた時、ギャラリーのオーナーから、「ギャラリーを閉じることにしたから、ここでお店をやったら?」と声がかかる。

「やりたいです」

アルバイトもしながらの営業であれば、なんとか家賃も払える。不安よりも楽しみのほうが大きかった。5ヶ月後、「TOKYO DANCE.」をオープンした。

見つけた古道具を誰かのもとへ。循環させてこそ、おもしろい

「TOKYO DANCE.」という店名をつけた理由は2つ。ひとつは、単純に「TOKYO」と「DANCE」の字体が好きだったこと。もうひとつは、ゆくゆく古道具屋じゃないことを始めたとしても、屋号として使える自由な雰囲気が気に入ったからだ。

「ダンスって、常に動いているようなイメージが広がって、楽しい感じがしますよね。お店を作る時に、古道具屋っぽくしたくないという思いがあったんです。古道具屋の多くのイメージが、静か~な感じで、パッと値段を見たら数万円もして『買えないよ』と…。それじゃぁおもしろくない。手にとって、買って、家に持ち帰られる価格をつけたいし、気軽に通えるお店でありたい。仕入れたものを循環させてこそ、おもしろいと思うので」

アンティークや骨董品と呼ばれるものを売るのではなく、あえて不用品に近いようなものを集めることに、土居さんは古道具屋の醍醐味を感じている。

「価値があると言われているものではなく、失われゆく古物を僕が引き上げ、それを買ってくれた人がそれぞれに、新しい視点や発想を持って利用してくれたら嬉しい。物が物の原点に戻るというか。だから、埃まみれで民家に転がっていたものを洗って綺麗にして、値札をポンとつけて商品に昇華したと感じる瞬間、『誰かの手に届いていくんだなぁ』と思うと、嬉しくてワクワクしてきます」

家に飾る絵画をずっと探していたという人、写真が好きで額縁を探しに来る人、「僕もひとりでお店をしています」と店内で使う棚を買いに来た人、音楽が好きな人。いろんな人が、お店にやってくる。

「駅からちょっと離れているので、もっと立ち寄りやすい場所にすればよかったと、不安になったこともありました。でも、インスタを見て、遠くてもわざわざ来てくれる。そんなお客さんたちの気持ちに救われています」

最近は、常連さんと仲良くなったり、近所の人とごはんに行けるようになったりして、日が経つほどこの場所が気に入っているそうだ。

「『TOKYO DANCE.』という箱がひとつあることで、いろんな人が集まってきてくれる。僕はここにいるだけなのに。『自分=TOKYO DANCE.』と認識してもらえるようになって、いろんなことがどんどん広がっていくんです」

物同士から生まれる世界観を大切にしたい

並べ方にも土居さんの工夫が光る。サイズ、素材、色。バラバラに見えるものを、どう並べるかでお店の個性が決まるという。

「仕入れ前は別々の場所にあった物なのに、どこかでつながっているような一体感があったり、使用目的も素材も違うのに、並んでいるとなぜか心地よかったり、そんなことを意識して並べています。お客さんは、どんなふうに置かれているかなんて、たぶん考えないと思うんですが、無意識に感じとっている気がするんです。これの隣にこれがある感じが僕は気持ちいなと思って並べて、それがフワッとお客さんにも伝わって、手にとってくれたら嬉しいです」


「オープン当時の陳列を写真で見返してみると、ぜんぜんうまく並べられてなくて、恥ずかしいですね。毎日ひたすら商品と向き合って、少しずつ、僕の色が出てきたかなと思います」

ひとつに定まらないお店でありたい

これから「TOKYO DANCE.」はどう進化していくのか。

「ひとつの目標として、嫁さんといっしょにお店をできたらいいなと思っています。それまで、どこまで一人でできるのか、楽しみながら模索したい。もう一店舗出すかもしれないし、大きな規模のお店にするかもしれない。夢だけがふくらむ一方です。いずれにしても、ひとつに定まらないお店でありたいと思っています」

定休日も、仕入れに足を運ぶことが多いという。

「古道具の世界って、娯楽といえば娯楽です。それを仕事としている以上、『遊び』の感覚を持って楽しむことが大事だと思っています。できるだけ公私混同させて、自分自身がいつも楽しんでいたいですね」

誰かが決めた価値観にとらわれることなく、自分の視点や発想を信じて、お客さんと新しい価値観を共有し楽しむ。そんな軽やかさが、お店に足を踏み入れた時に感じる心地よさや、「何か見つかりそう!」というワクワク感につながっているのだろう。

「物の価値ってよくわからないから…」と、古道具屋に行くのをちょっと躊躇している人こそ、ぜひ訪れてみてほしいお店だ。

TOKYO DANCE.
 
住所:東京都世田谷区駒沢5-17-13
営業時間:12:00~19:00
定休日:水曜、木曜
Instagram https://www.instagram.com/tokyo_dance_/

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