PEGO

野々村まきこさん

最寄り駅
上町

上町駅から少し離れた住宅街の一角。車一台が通れるような小道を曲がると、子どもたちが色とりどりのチョークで道路に絵を描いていた。夕方、自転車に乗った近所の小学生が次々にやってきて、店先はあっという間に小さな影で埋まる。おこづかいの10円玉で買える一口サイズのソフトクリームを見ているとノスタルジックな気持ちになるのは、むかしよく行った駄菓子屋を思い出すからかもしれない。放課後は、解放感を味わうひとときだ。そんな子どもたちの日常に寄り添う店を覗いた。

文章:吉川愛歩 写真:阿部高之 構成:鈴石真紀子

10円で買えるご褒美ソフト

「30円ソフトに、黒蜜と白玉いっこ」
「あんことドーナツ最中のせ」
「いつもの!」
店先に貼られたメニューを眺めて、子どもたちは慣れたように思い思いのおやつをオーダーする。近くには3つの小学校のほかに児童館や大きな公園があり、放課後になると財布を持った子どもたちが一斉にやってくるのだ。
「いつものって何よ」
そんな子どもたちと楽しそうに話すのは、「PEGO」のオーナー・野々村まきこさんだ。4年前、自宅の駐車場に増築するかたちで「PEGO」をオープンさせてから近所の子どもたちとの交流がはじまり、今では「桜小や世田谷小、桜木中学校など、地元の子どもたちがたくさんが来てくれている」という。運動会であの子が一位だったとかテストでいい点を取ったとか、友だち同士のケンカや仲直りのことまで野々村さんの耳に入り、自然と子どもたちの人間模様が見えてくる。


「PEGO」のメニューは少し風変わりだ。ソフトクリームやかき氷、抹茶ラテなどのメニュー以外に、保護者同伴でない子どもに限り、「子どもメニュー」が注文できる。 「小さめソフト(280円)」を量り売りにした「おこづかいソフト」は、10~150円まで10円単位で好きな量だけ買うことができる仕組みだ。通常メニューと同様、ひとつ10円の白玉だんごやグラノーラ(+30円)、あんこ(+20円)などのトッピングが選べ、黒蜜ときなこは無料でかけることができる。

「はじめは子ども用にと思って、小さめソフトをもっと小さくした100円ソフトを売っていたんです。でもおこづかいって、その家その家によって考え方がまったく違うものなんですよね。だから持っているお金に合わせて買えるのがいいかなって、だんだんこの形になっていきました。トッピングをどうするか一生懸命計算しながら考える子がいたり、ふたつ買ってひとつをお母さんにプレゼントって持って帰る子がいたり。おてつだいをして10円もらえる子はいても、今の世の中10円で買えるものはほとんどない。赤字かもしれないけど、10円で買えるちょっとしたおやつがあるっていいですよね」

しばらくおやつタイムを楽しんでから塾に行く子、公園に持って行って遊びながら食べる子、食べながら野々村さんと話し込む子。今の小学生は勉強や習いごとで忙しいと言われているなかで、「PEGO」は子どもたちのオアシスのようだ。



メインは限界まで甘さをおさえたあんこ

もともと野々村さんは、青山でレストランのシェフとして働いていた。その後、同僚と代沢に国産ワインだけを扱うレストランをオープンさせ、妊娠・出産を経て、ふたたび現場に戻るつもりだった。
「ところが、息子は生まれてしばらくして、重度の自閉症であることがわかったんです。想像以上に育児に手がかかり、外に出て働くイメージが持てなくなって…。しばらく仕事から遠ざかっていたのですが、子どもの小学校入学を目前に控えたころ、育児と両立しながら仕事ができないかと模索しはじめました」

妊娠中に探して越した一軒家は、もちろん店舗を出すことを想定したものではなかったが、家を離れられないのだから、自宅にお店を造るしかない。駐車場にキッチンカーを停めようか、この場所でいったい何を売ったらいいのか、考えるばかりの日々が続いた。

「スペース的に、椅子に座って食べてもらう場所は作れないので、何かのテイクアウトのお店ということはすぐに決まったのですが、じゃあ何を? って(笑)。焼き菓子なら持ち帰っても美味しく食べられるけれど、毎日同じクオリティで焼けるのは、やっぱりパティシエのような人。わたしはお皿に料理をのせてその場で食べてもらう仕事しかしてこなかったので、テイクアウトというところでかなり手こずりました」


悩んだ挙句、野々村さんが挑戦してみようと思ったのは、「あんこ」だった。
「最終的には、自分が好きなものを作ろうっていうところに落ちつました。あんこって、小豆より砂糖のほうが多いものもあったりして、市販のものってとても甘く作られているんですよね。甘さ控えめのものでも、糖度が50度はあるんです。甘すぎてたくさん食べられるものじゃないなあと常々思っていたので、自分が好きな甘さのあんこを作りたくて、あんこを中心に商品が広がっていきました。『PEGO』のあんこは糖度40度以下で作っているので、ぱくぱく食べられる。子どもたちにも、ちゃんと豆の味がするあんこを知ってほしいです」


低糖度で作った無添加のあんこは、つぶしあんや塩こしあん、抹茶、味噌のほかに、季節限定の味が楽しめる。今の季節は、羽根木公園など世田谷の梅の実で作った青梅ジャムを練りこんだ青梅あんと、ほうじ茶あん。洗双糖や白双糖、黒糖など、あんこによって砂糖の種類も使い分け、控えめで上品な甘さだ。この夏からは、好みのあんこが選べるフルーツ白玉あんみつ『PEGOかん(350円・ソフトクリームつき450円)』も発売。青梅で風味づけした寒天が暑い日を涼しく潤してくれそうだ。また、あんみつが終わる秋には、さまざまな味のあんこを使ったおはぎが登場し、毎年予約でいっぱいになる。

「あんこだけのテイクアウトも人気で、毎週のように1kgのあんこを買ってくださる方や、全種類ちょっとずつ詰めて、という方も。糖度が低いので日持ちはあまりしないのですが、パンに塗ったりホットケーキに添えたり、ご自宅でもいろいろな食べ方を楽しんでいただいています」

普段は牛乳だけで作るさっぱりしたソフトクリームも、毎月最終週だけは豆乳から抽出した豆乳クリームを加えた、濃厚な豆乳ソフトクリームになる。

福祉との関わりを持つ、ということ

「PEGO」には、その場で食べるようなソフトクリームやかき氷以外にも、くるみと小豆を煮た瓶詰めの「くるみつ」や、ラテールメゾンの丸いパンにあんことトッピングを挟んで食べられる「あんサンド」、それから黒糖や洗双糖を使ってじっくり焼き上げられたグラノーラなどがある。
どれも手土産として持っていけると評判で、特にグラノーラはプレーンな味のほかにも、季節ごとに変わる限定フレーバーがある。初夏のこの時期は有機のレモン果汁を使って焼いた、レモンとブルーベリーのグラノーラ。大きめにカットされたレモンピールが噛むたびに爽やかで、アイスのトッピングとしてだけでなく、おやつにぽりぽり食べるのもおすすめだ。


そしてこのグラノーラを語る上で、外せないことがある。ブログにも“二代目(仮)”というネーミングでよく登場する10歳の息子さんをとおして出会った、福祉作業所のことだ。現在「PEGO」で販売しているグラノーラは、世田谷区内にある福祉作業所の工房で製造し、検品と包装を「PEGO」で行っている。青梅あんに使われている梅ジャムも、この工房で加工・販売しているもので、それに野々村さんが白あんを練って仕上げているのだ。

「グラノーラの委託製造をどこかの福祉作業所にお任せできたらいいな、とは思っていたものの、すぐに実現できたわけではありませんでした。各作業所によって状況はさまざまだと思いますが、通常業務だけでも職員のみなさんはとても忙しくされているんです。そこで新しいことをはじめるとなると人手不足になってしまうこともあって、受け入れていただくのが難しかったんです。そうしていくつかの作業所をまわってお話しするうちに、ようやくひとつの作業所で受け入れてもらい、製造をお願いできることになりました。グラノーラはクッキーやパンなどと違って、練りすぎてはいけないとか、発酵の状態を見なければいけないという作業がなく、計量して混ぜて焼くことでできあがるので、作業していただくのによいメニューなんです。わたしも月に一度は伺って、作業員の方々といっしょにグラノーラを作りながら調理のポイントをお伝えしています」


ゆくゆくはさまざまな福祉作業所の自主生産品として、グラノーラを販売したり、作業所自体のブランディングを考えたりしていきたい思いもある。ただそこに至るまでには、商品の検品体制を整えることや作業員の指導、販売販路を増やすなど、さまざまな課題がある。

「製造スケジュールに追われてしまうと、作業員ができなかった分を職員がカバーしなくてはならなくなってしまう。そうすると職員の方々がさらに忙しくなってしまうので、どんなふうにしていけばいいか、まだ考えなくてはならないことがたくさんあるのですが、お互いが楽しく、地域の方々とも協力し合ってやっていけたらいいなと思っています」

地域で子どもを育てる環境づくり

野々村さんが地域との関わりを持つなかでもうひとつ積極的に支援しているのは、子ども食堂へのおやつ提供だ。上町のさくら通り商店街にある「ツリーハウス」」というカフェで月に一度ひらかれる子ども食堂に、野々村さんはさまざまな種類のあんこを持って行っている。集った子どもたちは、クッキーに「PEGO」のあんこをたっぷりのせて食べているという。

「あんこが嫌いな子どもたちが、これなら食べられる、と言って食べてくれたのは嬉しかったですね。普段は週に二日、限られた時間しかお店を開けられないのですが、去年3周年記念のときは土日も開けたんです。そうしたら平日は来られなかった人が来てくれたり、子どもたちがお母さんお父さんを連れてきてくれたりして、『子どもから聞いてはいたけど初めて来ました』と言ってくださった方もいらして。この地域のたくさんの方に、あんこの美味しさが伝わっていくといいなと思っています」

地域に根づきはじめた「PEGO」は、子どもたちの成長や街の人たちの日々を見守るようにしてそこに在る。小学生だった子どもが中学生になり、「いつも部活で遅くなっちゃうからなかなか来られなかったけど」と言って制服姿で久しぶりに立ち寄ってくれたり、犬の散歩ついでに毎日寄って何かしら食べていく人がいたり。
特別な食べものじゃなく、いつもの日常にちょっと彩りを添えてくれるあんこが、今日もだれかのちょっとした優しさにつながっている。野々村さんの笑顔を見ているだけでふっと安心した気持ちになって、なんだかいろいろ話したくなってしまうのも、「PEGO」に人が集う魅力かもしれない。

PEGO
 
住所:東京都世田谷区桜1-28-14
電話: 03-6413-0383
問い合わせ先:gb@pego-net.com
営業時間: 火曜・水曜(11:00~17:00)
ウェブサイト https://www.pego-net.com/

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