SISTER MARKET

長谷川茜さん

最寄り駅
祖師ヶ谷大蔵

小田急線の祖師ヶ谷大蔵駅から歩いて約15分。世田谷通りから一本路地を入った住宅街に、長谷川茜さんが営むワードローブ&カフェ「SISTER MARKET」はある。賑やかな商店街でもなく、駅からアクセスがいいわけでもないこの場所は、一見、お店をやるには不利な場所のように思える。しかし、そんな不便さを微塵も感じないほど、この店にはお客さんが全国各地から足を運ぶ。なぜだろうと不思議に思いながらお店を訪ねてみると、一歩その空間に足を踏み入れた瞬間に納得。いわゆる“お店”とはちょっと違う、心地よさとわくわく感があった。

文章:内海織加 写真:黒坂明美 構成:鈴石真紀子

旅先で見つけた“好きなもの”だけを詰め込んで

「おじゃまします」。思わずそう言いたくなるような、小さな扉を開けると、右側には陽が気持ちよく差し込むカフェカウンター。そして、それ以外の空間には、さまざまな洋服やアクセサリー、ユニークな器や小物が所狭しと並んでいる。

「なにか気になることがあったら、なんでも聞いてくださいね!」。店主の長谷川茜さんのそんな一言で、ほんのひと匙の緊張はスッと消え、そのうち“お店”というより、おしゃれな友達の家に遊びに来たような、憧れのお姉さんのお部屋におじゃましているような、そんな感覚になってしまうから不思議だ。

小さな袋に石が入った手作りのネックレスが気になって手に取ると、
「それは、ハワイで出会ったサンディエゴのアーティストの手作りなんですよ。小さな袋に厳選した石とセージが入ってる『お守りネックレス』。このレザーも再利用でね。石がちょっと見えるところもかわいいでしょ」

と茜さん。その他にも、NYで出会ったキルギスの女性支援プロジェクトで作られた人形だったり、ポートランドで出会ったアフリカで手作りされているバスケットだったり、オリジナリティ溢れる作家物のアクセサリーだったり、それぞれのアイテムにまつわるエピソードをおしゃべりの延長という感じで語ってくれる。それは、まるで旅の土産話を聞いているかのよう。

それもそのはず、ここに置いてあるアイテムは、年に数回、茜さんが自ら海外に出向いて買い付けをしてきたもの。その場所は、 NY、ハワイ、ポートランドなど様々だ。

「ここにあるものは、旅する中で見つけた“私の好きなもの”。極端なことを言うと、場所はどこでもよくて、そこで何を見つけるかが大事なんです。だから、できるだけ自分の足で歩いて、自分の感性で見つけるようにしています。旅の中で出会ったものばかりだから、1点1点に思い入れやエピソードがあって。そういう思い出と結びつくからか、どのお客様が何を買ってくださったかは、自然と記憶に残っているんです」

ここにあるのは、純粋に茜さんの好きなものだけ。だから、自然とお部屋におじゃましたような心地よさとわくわくを感じてしまうのだろう。

女の子たちも洋服たちも幸せになってほしいから

壁沿いのラックに色別に並べられたアパレルは、ヴィンテージもインポートの新品も混在。そんな陳列の方法にも、茜さんのセレクトの哲学が密かに隠れている。
「アパレルをセレクトするときは、形や色や肌触りで選んでいます。先入観で選ばないようにブランドタグもあまり見ませんし、古着か新品かで判断することはほとんどありません。だから、お客様にもそういう感じで固定概念に縛られずに、自由に洋服選びを楽しんでほしくて、シンプルに色別で並べているんです。感性で選んだものが“たまたまヴィンテージだった”という感じいいんじゃないかな、と思って」

セレクトするときに古着か新品かは関係ないとはいえ、ヴィンテージは丁寧にメンテナンスが施され、「YESTERDAY」というタグが付けられる。それは、またこの一着が長く愛されるといいなぁ、というささやかな願い。

「ヴィンテージのアイテムは、首が詰まりすぎているものをちょっと着やすく調整したり、丈を直したりしています。あと店頭に出す前には、もう一度生き返らせるような感覚で、幸せに旅立ってねって思いながら1点1点アイロンがけをするんです。その時間が大好きでね。表舞台に出すよ!って、送り出すような気持ちにもなります。それで、ぴったり似合う方に出会ってくれると、本当に嬉しくなりますね」

そんなふうにアイテムへの愛情もたっぷりの茜さんだが、「お客様への接客は、ほぼしない」が「SISTER MARKET」のやり方。それは、決してドライな訳ではなく、好きなだけ見ていってね、焦ることなくゆっくりお気に入りを探してね、というあたたかい心遣いに他ならない。その安心感もまた、ここの居心地の良さなのだ。

「宝探しをするような気持ちで、楽しんでお気に入りを見つけてほしいから、こちらから声はかけないんです。私たちは、そのお手伝いをするだけ、そう思っています。売りたいとか、なんでもいいから買ってほしい、みたいな気持ちは全然ないので、『似合わないからそれじゃないかも』『前回買ったのと似てない?』とはっきり言っちゃうときもありますよ(笑)」

決して便利がいいとは言えないこの場所でも、足繁く通ってしまう常連さんは、きっと、茜さんのそういうところに惚れてしまったにちがいない。そして、いつしかショッピングはもちろん、茜さんに会いたくてやってくるのだろう。

「一人でいらっしゃる女性が多いんですよ。自分だけの場所にしたいって思ってくださるみたいで。それで、ここで知り合ってお友達になる方もいますしね。あとは、遠くから足を運んでくださる方も多いんですよ。北海道からとか富山からとかね。インスタとか口コミで知ってわざわざ足を運んでくださるんです」

丁寧に淹れたコーヒーや、開店前に焼いているという素材にこだわって作られたオーガニックケーキを楽しめるのも、ここでゆっくり過ごしてね、という茜さんの想い。うっとりとするようなものに囲まれ、ユーモラスなヴィンテージのカップ&ソーサーで飲み物をいただくひとときも、ここにやってくる女の子たちにとっては記憶に残る特別な時間だ。

「ありがたいことに、“パワースポット”なんて言っていただくこともあって。だから、ここが常に気持ちのいい場所であるように、そして自分自身も気持ちのいい状態でいるように心がけています」

足を運ぶ人にとっては、その道のりも出会いも全てが旅みたいなもの。図らずも、茜さんが買い付けで経験している旅の追体験に導かれているのがおもしろい。

それぞれの得意を持ち寄ることがハッピーでいるコツ

突如、「SISTER MARKET」という名前が気になった。扉の窓にも、二人の女性の似顔絵が描かれている。「あ、ここね、最初は妹と二人ではじめたんです」と茜さん。聞けば、オープン当初は場所も代々木上原。スタートした時は、今のようなお店ではなかったのだそう。

「私はもともとスタイリストをしていて、結婚と出産をきっかけに、自分が働きやすい環境や居場所を作りたい、と考えるようになったんです。当時、お金は十分にはないけれど、仕事柄、洋服はたくさんあったので、スタイリストに限らず、一般の方も利用できるリース屋さんを姉妹ではじめて。ビルの一室というのもプラスに働いて、秘密のクローゼットみたいな感じでよろこんでいただいたんです。その頃から砧には住んでいたので、私の二人目の妊娠を機にお店を砧に引っ越して、こうしてカフェ併設のお店に至るまで、少しずつ進化してきた感じです。最初は、こんな住宅街でやっても繁盛しないよ、なんて言われましたけど、わたし、あんまり気にならなかったんです(笑)」

素敵なお店にしていくということに加え、常に、自分たちも心地よくいられるということを大切にしてきたという茜さん。だから、移転することやカフェをやることなど、変化していくことへの恐れや躊躇が全くない。その軽やかさは、一緒にお店をやっていく妹さんとの役割もそう。

「妹は、もともと表に立つよりも黙々と手を動かすことが得意な職人気質。今は裏方として支えてくれていて、私が買い付けてきたヴィンテージのお直しをしてくれたり、海外のビーズでアクセサリーを作ったり。私のマネジメントみたいなこともしてくれて、本当に助かってます。わたし、マグロみたいに動きっぱなしだから、そういう人が必要で(笑)」

「SISTER MARKET」は、表だけ見れば茜さんが営むお店。しかし、今でも見えないところに妹さんの活躍があって、店名の通り姉妹で育てているお店なのだ。そうやって適材適所で役割を分けるというのは、スタッフに対しても同じなのだとか。

「人って、得意なこととそうでないことがあると思うんですけど、私は、不得意なことはしなくていいと思っているんです。自分の得意分野に力を注いで、苦手分野は、誰か得意な人にお願いする方がいい。だから、スタッフには、得意なことで力を発揮してもらえるようにお仕事をお願いしています。洋服を着こなすのが得意な子には、スタイリングのモデルをお願いしたり、英語が得意な子には、海外のアーティストへの交渉で力を発揮してもらったり。その方が、みんなハッピーでしょ!」

こういう茜さんの清々しさと、心地よくあろうとする行動のひとつ一つが、この場所を“パワースポット”にしているだろうな、と合点がいった。

ちなみに、茜さんは得意分野であるスタイリングの技とセンスを生かして、時折、コーディネート講座を開いている。

「トランクいっぱいに洋服を詰めてきてもらって、その中での着こなしを見つけたり、店に並んでいる服の中から、自分に似合うものや持っているアイテムと合わせられるものを選ぶ練習をしたり。お買い物も講座もそうですけど、女の子が自信を持ってくれたり、輝いてくれたらいいなって思っているんです。知人に『茜さんの仕事は、女の子をキラキラさせるライトワークだね!』って言っていただいたことがあるんですけど、まさに、そういう仕事をしていきたいって思っています。実は、この小さなお店で婚活イベントをやったことがあるんです(笑)それもいつも来てくれる子たちが幸せになるといいな、っていう気持ちで開催したんですよ」

茜さんの得意分野は、きっと、スタイリングばかりでなく、人の背中をやさしく押し、笑顔に導くこと。そのためなら、なんでもやっちゃう行動力も、彼女の魅力だ。

軽やかに前向きに、12年目の新たな旅がはじまる

お店の場所や形態を変えながらも、すくすくと育ってきた「SISTER MARKET」は、今月で11周年を迎える。こうして長い間お店を続けていること振り返るように、彼女はこう語り出した。

「商売って、誠実でないとできないと思うんです。もともと、父が商売をしている人だったこともあって、1円でもお金をもらうことってどういうことかっていうのは常に考えています。頑固ジジイみたいですけどね(笑)私自身、“生きたお金の使い方をしたい”って常々思っていて、どこでお金を使うのか、なににお金を払うのかっていうところは、すごく意識しています。だから、ここに来てくださる方にも、満足度の高いお金の使い方をしていただけるように、商品のセレクトや飲食メニューにもこだわっています。簡単に売ったり買ったりできる今のような時代だからこそ、この場所まで足を運んでくださることを大切にしたいですし、せめてここで過ごしていただく時間を目一杯楽しんでいただけたらいいなと思いますね」

そして、あらためて「SISTER MARKET」と歩んできた11年の道のりと、「SISTER MARKET」と歩んでいくこれからを茜さんはこう語る。

「私って、いつも直感で動いてしまうから、考えている時にはもうやっているくらいのスピード感で(笑)このお店も、いろいろやりながらここまで辿り着いたという感じです。私は、出会う人や行った場所によって考えが変わることがあるんですけど、そうやって素直に変化していくことを悪いことだとは思いません。買い付けで海外に行く度にインスピレーションを受けて、こんなお店もいいなぁ、こんなものを置けたらなぁ、って常に新しい構想が生まれています。明日なんかわからない毎日を生きていますから、このお店がどんなふうに変身するのかもわかりませんし、ずっとここにあるかどうかすらわかりません。でも、それでいいかなって思うんです。私が大切にしたいのは、自然体でいることと自分に嘘をつかないこと。これから年相応にシワの数が増えていくのも、とっても素敵なことだと思っているんですよ。『SISTER MARKET』も私自身も、これからどうなっていくのか、とっても楽しみなんです」

過去を振り返るときも、未来へ想いを馳せるときも、茜さんはいつだって軽やかで、そして前向きだ。それは、彼女が今日よりも明日、明日より明後日の方がいい日になることを、これまでの経験で知っているからかもしれない。12年目の「SISTER MARKET」は、どんなふうに羽ばたき、どんな旅をするのだろう。

SISTER MARKET
住所:東京都世田谷区砧3-17-2
※取材時の場所から隣に移転。元の店舗はカフェとしてリニューアルオープン。
 

〈移転先〉
住所:東京都世田谷区砧3-5-13
営業時間:12:00~18:00
定休日:日曜、月曜

ホームページ:https://sistermarket-tokyo.stores.jp/

Facebook:SISTER MARKET

Instagram:@sister_market

 

(2019/11/19)

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