IHANA Nordic Walking 主宰

黒木公美さん

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世田谷エリアを拠点として、ノルディックウォーキングのインストラクターをしている黒木公美さんと待ち合わせをしたのは、ところどころにしっとりと朝露が残り、清々しい空気を木々が包み込む砧公園。彼女が、定期的に女性のためのノルディックウォーキングレッスンを開催している場所だ。今回は、世田谷生まれ世田谷育ち世田谷在住という彼女と一緒に、世田谷の町を散策することに。一緒に汗をかきながら、彼女の活動について、そして女性たちに伝えたい熱い想いについて、たっぷりお話をうかがった。

文章:内海織加 写真:阿部高之 編集:鈴石真紀子

町歩きは、体の筋肉も表情筋もしっかり使いながら

待ち合わせをしていた世田谷美術館前の広場で佇んでいると、一人の女性が颯爽と気持ちよさそうに歩いてくるのが見えて、思わずその姿に視線を奪われてしまった。その女性こそ、黒木公美さん。歩いている時は、足の運びとスピード感で高身長に見えたのに、足を止めてニコッと挨拶を交わした彼女は、華奢で女性らしい印象で驚いた。

今回は、砧公園をスタート地点として、世田谷の町歩きをしよう! ということで、まずはストレッチから。

「歩く前には、ストレッチで肩甲骨と股関節を解して、ウォーミングアップとして腹筋とお尻の筋肉を動かすようにしています。そうすると、ただの散歩ではなく、体幹で歩くことができるようになってきますし、筋肉の始点から大きく動かすことができるようになると、カロリー消費もアップします。

ノルディックウォーキングって、もともとクロスカントリースキーの選手が、雪のない夏場にトレーニングとして行なっていたものなんですが、全身の90%の筋肉を使うとも言われているんですよ。私たちは、歩きながらしっかりおしゃべりも楽しんでいますから、表情筋も使っていますしね(笑)。では、体も目覚めたところで、行きましょうか!」

ポールを手に装着し、歩き出した黒木さん。リズミカルで軽やかで、そこまで大股で歩いている感じはしないのに、スピーディーにぐんぐん前に進んで行く、その歩き姿の美しさに、再びうっとりしてしまう。

「上半身は、鎖骨から腕だと思って大きく動かすんです。そうすると、自然と胸が開いて背筋もぴっと伸びてきますし、腕振りに伴って肩甲骨が動くと連動している骨盤も動きます。それで、足が前に出て行くから歩幅も大きくなるんです。私もこの歩き方を習得して腹筋を使って歩けるようになったら、腰痛がなくなりました。少しだけ重心を前にするといいですよ。前に歩いている人の背中から糸が出ていて、それに引っ張られるようなイメージ。ポールを少し後ろについてぐっと押すようにして歩くと、普段歩いているよりもちゃんと筋肉を使っている感じがしませんか? あ、でも考えながら歩いてしまうとロボットみたいになっちゃうので、リラックスしておしゃべりしながら行きましょう! その方が自然に歩けますから」

体の声に耳をすませば、欲しいものは自ずとわかる

砧公園を出て、馬事公苑方面に向かって歩いていると、黒木さんとの縁も深い「Tree of Life」の前に出た。日本にグリーンスムージーを広げたと言っても過言ではない「GREEN LIFE HOLISTIC ACADEMY」を主宰する姉妹によるこのスペースは、黒木さんのお気に入りでもあり、今では一緒にワークショップなどを企画している。

「体を動かすようになったら、食べるものにも気を使うようになってきて。グリーンスムージーは自分でも作ってよく飲んでいたので、GREEN LIFE HOLISTIC ACADEMYにも通うようになりました。当時はカフェ営業もしていましたから、レッスンの後におじゃましたり、お味噌作りのワークショップに参加したり。その内、砧公園のレッスンに参加してくださるようになって、戸隠古道を歩くリトリートや漢方茶ブレンドのワークショップを一緒に企画させていただいたんです。グリーンスムージーもそうですが、体をちゃんと使っていると、たんぱく質やビタミン、ミネラルが摂取することができるフレッシュな野菜や果物、お肉を求めるようになります。本能的に体が欲しがっているものがわかるようになるんでしょうね」

自分の中に何かを取り入れようとする時、黒木さんを動かすのはご自身の心の声。きっと、何を選ぶべきなのか、その答えは考えるよりもずっと先に、体や心がもうすでにわかっているということなのだろう。

それは、学びも同様。ノルディックウォーキングのインストラクターの資格を取った後、黒木さんは他にも体にまつわる様々な勉強をし続けている。その一つが、「漢方」。漢方というと、効能のある植物をお茶にして体に取り入れるなど、薬のようなイメージを持つが、実は漢方の真髄はそこではないと黒木さん。

「歩きながらいろいろな方とお話ししていると、みなさん様々な悩みを持っていて、気づいたら“歩くお悩み相談室”になっていることもしばしば。少しでも役に立つお答えができたらなぁ、とその手がかりになるものを探す中で出会ったのが漢方でした。薬日本堂漢方スクールで漢方の講座を受け始めると、最初に習ったのが『漢方は、漢方薬を飲むことじゃありません』ということ。運動することや外で季節を感じながら体を動かすことも推奨しているので、私がウォーキングで伝えたいことともフィットするな、と思いましたね。

漢方を勉強していると“気”の話が出てくるんです。気を補うとか、気のいい場所とか。気って、ちょっと怪しいイメージもあるけど、実際に高台に行くと気が巡るし、太陽を浴びると気を補うし、ジメッとしたところに行くと気が滞る。それを肌で感じて、パワースポットがなぜそう呼ばれるのかも、理解できるようになってきました。だから、プログラムでお連れするスポットは、できるだけ気を補い、巡らせることができる場所にしたいと思っているんです。そういうお話も、身構えられないレベルでご説明するようにしています(笑)」

弦巻を通って上町方面へ向かうあたりで、「この近くに私のパワースポットがあるんですけど、行ってみませんか?」と黒木さん。ぜひぜひ! と付いて行くと、辿り着いたのは「松丘小学校」。

「外周に言葉と絵がセットになった子どもたちの作品が展示されているんですけど、ちょっと元気がなくなるとここに来て作品を眺めるんです。絵もかわいらしいのですが、言葉がなかなか深くて。その時その時で、自分にぴったりな言葉がバーンと入ってくるんです」

今、必要な言葉が目に飛び込んでくるのは、体が欲している食べ物がわかる、という感覚とどこか似ている気がする。そして、それは黒木さんが、自分の体や感覚に信頼を置いているからこそ、素直に受け取ることができるのだろう。


そして、もう1箇所、黒木さんのお気に入りのパワースポットだと連れて行ってくれたのが、松丘小学校のお隣にあるお寺「実相院」。一歩中に入ると、そこには生命力溢れる木々と巨大な石があり、竹筒から水滴がぽつりぽつりと落ちて手水鉢には美しい波紋が描かれる。


「ここは、公園の気持ち良さとはまた一味ちがって、囲われているからこそ気持ちが落ち着いて自分に帰ることができる感覚があります。木を見ると気持ちが伸びやかになって、土を見て大地に根ざすグランディングをイメージして、巨大な石(金)にはシャープな印象を受け、水には清涼感や心地よさを感じます。これは、まさに漢方の基本的な考え方である五行説のうちの木・土・金・水です。そして、穏やかな表情の石仏の気持ちになってベンチに座って、水滴が落ちるいのをただただ眺めて瞑想をすると、すっと心が落ち着くんです。ほら、この水滴の音もいいでしょ」

歩くことを通じて、女性たちの背中を押しエールを送る

「実相院」から歩いて5分。最後に訪れたのは、黒木さんが先日、散歩をしていて見つけたという大人のドーナツ屋「BALLE BALLE」。螺旋階段を登ってお店におじゃますると、ショーケースの中には丸くてかわいらしいドーナツがずらり。

「お寺の庭でプチ瞑想をした後に、こういうお店に立ち寄ることができるのが、世田谷の良さですよね。瞑想だけだと気持ちが内に向いた状態で終わっちゃうけど、こういう素敵なところで心をウキウキさせるのも大切だと思うんです。ここもそうですけど、世田谷ってこだわりをもって営業している素敵な個人店が多いから、店員さんとのおしゃべりも楽しくて、知的好奇心を掻き立てられることも多いですね。このお店の女性もご高齢でもお元気でかわいらしくて、いろいろお話をお聞きしたくなっちゃうんです!」


黒木さんは、世田谷生まれの世田谷育ち。以前働いていた会社も世田谷、今も世田谷にお住まいというのだから、その世田谷愛たるや! そんな彼女にあらためて世田谷の魅力をお聞きしてみた。

「世田谷って、いろんな意味でバランスがいい町だなって思います。たくさんの人が住んでいて便利でもあるけれど、意外と緑が豊かで、砧公園のようにホッとできるオアシスみたいな場所があるのもいい。一本路地を入れば、古い建物や知らなかったお店にも出会えるから、迷うのもなかなか楽しかったりして。あと、バランスの良さは、このエリアに住んでいる方にも感じます。自然も大事だし、オーガニックも暮らしに取り入れる、でもストイックすぎなくて、もう少し緩やかにいろいろなことを楽しめている、っていう方が多い気がします。レッスンに参加してくださっている方も思い切り楽しんでくださるから、私も気持ちよくて。そういう心地よさと安心感が、世田谷を拠点に活動したいって思える大きな理由ですね」

世田谷への思い入れも強い黒木さんは今年、世田谷在住の仲間と一緒に「greenist SETAGAYA」という女性向けのコミュニティーを立ち上げた。パークヨガやノルディックウォーキングのレッスンのほか、アロマの楽しみ方やお味噌作りなど、様々なワークショップを企画していく予定だそう。

「greenist SETAGAYAは、レッスンを行うためというよりも、もう少し広い意味でのコミュニティーにしたいという想いで立ち上げました。通常のレッスンでは私が先生ですが、お味噌づくりはメンバーの方が講師になってくださいますし、私の方が話を聞いてもらってアドバイスをいただくこともあります。集まる方の年代も30代から60代まで幅広いですし、趣味もお料理だったりお裁縫だったり様々。運動と緑という共通点が繋いでくれたいろいろな女性がいて、フラットな関係性で好奇心旺盛に話ができるのがいいな、と思いますね。そんな中で、greenist SETAGAYAが近すぎず遠すぎずの距離感で関わり合える地域のコミュニティーになったらいいな、私も所属していたいなと思いながら、このコミュニティーを育みはじめました」

「女性って、話すことでもやもやした気持ちを発散できますよね。一緒に歩きながらおしゃべりして、共感してもらったりアドバイスをもらったりしながらスッキリしていただけたらいいな、と思っています。上手い下手も競い合うこともなく、ただ緑に囲まれて心地よく体を動かすひとときの中で、みなさんが心身ともに穏やかになっていく姿を見ると、私も幸せな気持ちになるんです」

黒木さんが、女性たちが自信を取り戻し、活躍への一歩を踏み出す手助けをしたいと願うのは、10年前までは専業主婦だったご自身が、再び運動をはじめ、ノルディックウォーキングと出会ったことによって一歩社会に踏み出すことができたという経験があるから、そして今、活動の中で彼女自身が大きなよろこびを感じているからだろう。ノルディックウォーキングのレッスンで参加者を先導していく黒木さんは、歩くことを通じて、女性たちが自分らしい方法で輝くための〝旗振り〟をしているのかもしれない。迷わないためのサインという意味でも、背中を押すエールという意味でも。

黒木公美
ノルディックウォーキング·インストラクター
 
2015年より女性限定のノルディックウォーキングクラブを立ち上げ、砧公園、駒沢公園、築地、横浜、鎌倉、戸隠、フィンランドなど各地でプログラムを開催。また、運動では解決できない様々な不調を抱えている女性が多いことを知り、漢方を学ぶ。「心·食·動·休」のバランスのとれた過ごし方のアドバイスを行う。2020年より暮らしにgreenのある健康的でエココンシャスなライフスタイルを提案する女性のためのコミュニティー「greenist SETAGAYA」を立ち上げた。「IHANA Nordic Walking」主宰、漢方上級スタイリスト。

ウェブサイト:https://www.ihana-nordicwalking.com/

Instagram:@ihana_nordicwalking

(2020/08/25)

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