喫茶・洋菓子 LARE

礒部潔さん・日出夫さん・政子さん・伸子さん

最寄り駅
駒沢大学

昭和32年、茅場町にて『ラルー洋菓子店』として創業。その後、昭和39年に駒沢に移転し、親子2代にわたって『喫茶・洋菓子 LARE』を切り盛りしてきた磯部さんファミリー。街の変わっていく様を見つめてきた駒沢の老舗、その歴史と日常にふれてみる。 編集:加藤将太 文章:軽部三重子 写真:豊島望

半世紀以上、変わらない情熱。

駒澤大学のほど近く。246号線沿いにたたずむ一軒の喫茶店、LARE(ラルー)。周りの喧騒をよそに、この店の前には、香ばしいコーヒーの香りと昭和の懐かしい雰囲気が広がっている。

お店を切り盛りするのは、2世帯4人の礒部さんご家族。83歳のパティシエ、父・日出夫さん。コックだった日出夫さんの弟さんから受け継いだレシピを元に、この店の隠れた逸品であるカレーを守る母・政子さん。バリスタでありロースターの現オーナー、息子・潔さん。3人をサポートする、お嫁さんの伸子さん。ラルーは、コーヒー豆販売、自家製ケーキ、喫茶の3つの顔を持っている。

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最初に話を伺ったのは、パティシエの日出夫さん。お店に入って目の前にあるショーケースに並ぶのは、20種類近いケーキたち。もちろん、すべて日出夫さんの手作りだ。

「私の叔父がケーキ屋をやっていてね。そのツテで、終戦後、東京に出たい一心で始めたんですよ。洋菓子学校にも行かず、現場で直接学んでね」(日出夫さん)

そして独立し、茅場町で「ラルー洋菓子店」を始めたのは昭和32年のこと。半世紀以上、こうしてケーキを作り続けてきた。

「やっぱり洋菓子のメインは生菓子だよね。お客さんは、生菓子を見てケーキを買う。モンブランにショートケーキ、チョコレートケーキ、アップルパイ……。華やかさを保ってくれるんですよ。昔は、生菓子と焼き菓子が6:4とか7:3で生菓子が多かったんだけど、今は逆転しちゃってるね。日持ちの面もあるんだろうけど」(日出夫さん)

洋菓子づくりへの情熱は、83歳の今なお変わらない。

「いやぁ、奥が深い仕事ですよ。だから、続けてこられたっていうのもあるでしょうね。自分で言うのもなんだけど、たえず目を凝らす、頭を使う。それができないとやっていけないよね。たとえば、うちのガトーショコラでも、以前は上にココアパウダーを振っていたんですけど、チェリーを乗せるように変えたんです。それはね、街へ出ていろんなお店を見てね。若い方たちがやっている新しいものも取り入れていかないとね」(日出夫さん)

二代目の本気。

ラルーの2つ目の顔は、自家焙煎のコーヒー豆の販売だ。息子の潔さんがスペシャルティコーヒーの世界に足を踏み入れ、実際に店で焙煎を始めたのが2001年のこと。

「うちの店は古いですけど、他の喫茶店と違うのは、自家ローストっていう点と、私が師事したのが堀口俊英さん(千歳船橋のスペシャルティコーヒーの専門店・堀口珈琲の代表)っていう業界でも有名な人で、業界の中でも品質の高いコーヒーを扱っているっていう点と、実際に産地にも行っているので、一般のオーナーさんよりも情報には精通している点じゃないですかね」(潔さん)

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アフリカや中南米、インドネシアなど9ヵ国ほどを訪れ、インターネットからではわからない、生の情報にも触れてきた。使っているロースターも、改良窯と呼ばれる高性能なもの。また、欠点豆を取り除くハンドピックのひと手間も欠かさない、というこだわり様だ。

「事前にサンプリングをしているので、味に問題はないんですけど、このひと手間を加えることで、研ぎ澄まされて味がピュアになっていくんです」(潔さん)

今はこうしてコーヒーのプロとなった潔さんだが、もともとはコーヒーが好きではなかったという。

「だって、うちのコーヒー美味しくなかったんですもん(笑)。私も20代の頃は全く継ぐ気がなくて、違う仕事をしていたんですけど、母が一度大きな事故で入院をして。家の仕事を手伝うにもケーキは作れないので、喫茶のスペースを担当するねってことになったんです」(潔さん)

コーヒーの道に進んだきっかけを伺うと……

「うーん、食べていくため(笑)。手伝うようになってから、コーヒーのことを勉強し始めて、品質の高いコーヒーっていうのがあるのを知って。それなら、自分で焙煎した方が、商売にもプラスなんじゃないかと。だから、あんまり主体性はないんですよ」(潔さん)
そう言って笑う潔さん。でも、家業を継ぐというのは、そういうものなのかもしれない。自分が進んでいた道から、一転。自分から家業へと、主語を変えた瞬間。それが、二代目としての覚悟なのだろう。今、彼がコーヒーに向き合う姿勢が中途半端なものでないのは、話していればすぐに伝わってくる。

守り続ける、古き良きペース。

そして、喫茶スペースを切り盛りするのは、母の政子さん。。冒頭にも触れたが、ラルーはカレーの隠れた名店でもある。

「カレーのレシピは、コックだった義弟さんから受け継いだんですけど、私がちょっと足した部分があるのよ。お店に来るお客さんでイタリアンのコックさんをやっていた方がいらしてね。その方に『味はどう?』って聞いたら、『野菜の味がちょっと足りないなぁ』って言われたの。それで、セロリとニンジンとリンゴを私が足したんです。それで味がグッと良くなっちゃったと思います(笑)。おかげさまでね、カレーファンがいるのよ」(政子さん)

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きっと、この明るいお母さんのファンも多いに違いない。

今はこうして3つの顔を持つラルーだが、ラルー洋菓子店の時代から、長い時間の中で環境もお店自身も変わってきている。茅場町から今の駒沢に移転をしたのが昭和39年、東京オリンピックが開催された年。そして、小さな喫茶スペースを設けたのが昭和46年。その後、ケーキ工場の移転とともに喫茶スペースを拡張した。

「喫茶店ができ始めた昭和40年代でも、この辺りではうちともう一軒くらいでしたね。コーヒー飲めるところっていうのは」(潔さん)

その後、喫茶店が乱立する時代になり、近隣にコーヒーチェーン店ができて、売上が激減した時期もあったという。そして今はまた、2軒だけに戻った。全国的に見ても、喫茶店の店舗数はピーク時の半分ほどだという。そんな中でも生き残ってきた、ラルー。

「うちのお店は、基本的には古き良き空間というか。なんでうちのお店に来るのかと言えば、豆の違いとかもあるんだけど、気取らずにくつろげるから。ゆるい感じでのんびりできるお店っていうので、地元の方が利用してくれています」(潔さん)

そう話す潔さん自身もここ駒沢で育ったひとり。今でも同級生が来ることもあるという。

「この街は、人情味もありますしね。生活拠点として利便性も高くていいですよね。子供を育てる環境という面でも。アクセスもいいし、公園もあるし、病院施設も多いし、買い物も近いし。かつ、青山とか渋谷みたいに肩ひじ張らずに、サンダル履きで歩けるって言うんですかね。そういうところが魅力ですよね」(潔さん)

自己主張しないこと。

この付近には、ラルーの他にも長く続く個人店がいくつかある。パン屋、お茶屋、豆腐屋、八百屋、自転車店など。その一方では、辞めていくお店も。個人店ならではの苦労と喜びを伺う。

「後継ぎ問題はあるでしょうね。あと、個人店だと店内が混み合った時に『ちょっと待ってください』の連発になっちゃうことがあるんですよね。『じゃあ、もういい!』って出ていっちゃう人とかね。ひどい時だと私一人で店番してる時もありますから、どうしてもね。個人店の泣き所はそこですね。それでも、時代の流れの差で、最近はそういう人も減ったかなぁ。まぁ、気分よく待ってもらうのも技術なんですけどね」(潔さん)

一方、こんな東京の真ん中で富士山が見える時代から店を守ってきた日出夫さんは。

「この前、茅場町に店を出してた頃に近くで働いてたっていう、60代の女性が4, 5人で店に来て、『まだやってるんですね、懐かしい』って言ってくれてね。長くやったら長くやったで、そういう嬉しいこともありますね」(日出夫さん)

最後に、長く続ける秘訣は何か、問いかけると…。

「あまり自己主張をしないことじゃないですか(笑)。いや、ホントに。肩の力を抜いてね。なまじ自己主張が強いと、廃れるのも早いですよ、やっぱり。逆に、一筋でとことんやっていく人もいるけど、うちの店はそっちではないので。多様性っていうのがうちの取り柄なんだと思います」(潔さん)

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時代が目まぐるしく変わっていく中で、その流れに逆らおうとせずに力を抜いて、良い意味で流されながら。時代や人の変化を許容し、力まずに対応すること。ガトーショコラのチェリーのように。カレーのレシピのように。すごく簡単なことのように見えて、そこには絶え間ない小さな進化が、積み重なっているのだろう。

喫茶・洋菓子 LARE
住所:東京都世田谷区駒沢3-16-2
営業時間:1000~19:00(平日) 10:30〜19:00(日祝)※喫茶は16:30 LO
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