YOUNG

梶原英徳さん

最寄り駅
世田谷代田

小田急世田谷代田駅と下北沢駅のほぼ中間にある住宅街の一画。フラワーショップ「Forager」とひとつの物件をシェアして、「YOUNG」というインパクトしかない名前のカレーショップを経営するのは梶原英徳さん。あえて中心街から離れた場所にお店を構えたのは、自分の欲望を満たしたかったから。わがままだけど、逆に言えば、それは究極の選択でもある。ポップな響きのお店には、これまでの紆余曲折もにじんでいた。

文章・構成:加藤将太 写真:植本一子

世田谷生まれ、世田谷育ち

3月の「人びと」で紹介したチーコさんが営む小さなフラワーショップ「Forager」。チーコさんのインタビューでもふれたように、「Forager」はもうひとつのお店と物件をシェアする形をとっている。今回の人びとは、そのお隣さんのお話。カレーショップ「YOUNG」のオーナーである梶原英徳さんだ。

梶原さんが「YOUNG」をオープンさせたのは2015年11月のこと。知り合って間もないチーコさんを誘って、「YOUNG」出店の地を下北沢の繁華街から離れた住宅街に選んだのだった。

「最初は松陰神社前駅や上町駅周辺で物件を探していたんですよ。その帰りに飯でも食おうかなと思って、この前の通りになんとなく入ってきたら、この物件に出くわして。ここ空いてるんじゃね? と思ってすぐに検索したら物件情報が出てきたんです。それで、その場でチーコさんに連絡して、『お花屋さんができそうな場所があるんだけど、一緒に物件を借りてやりませんか?』って誘いました」

自分の店を構えるならば、できれば中心街から外れたところがちょうどよかった。一見あまのじゃくのように感じるけれども、そのひねくれた感じにも、しっかりとした理由があったのだ。

「僕は生まれが世田谷なんですよ。この辺りは学生時代の友人が多くて、チャリで移動して遊んでいた場所だから馴染みもあって。世田谷は雰囲気も人も土着感があっていいですね。その感じが自分にはすごくフィットしていて。それに世田谷って、不便な場所にあるのに素敵なお店って多いじゃないですか。『KAISO』とか『cibot』とか『Hi Monsieur』とかは中心街から離れた端のほうにありますよね。だから、自分もお店をやるならば、そういう感じがすごくいいなぁって。この場所は下北じゃない感じがするでしょう?」

「2番目に好きなことがうまくいく」

自らキッチンに立ちながらカレー屋を経営する梶原さんだが、飲食店勤務は美容専門学校時代に半年ほど経験した、下北沢にあったカレー屋での皿洗いだけ。学校を卒業してからは美容師として生計を立てながらバンド活動を続けてきた。やがて、どちらも辞めてからはサラリーマンに。仕事終わりと休日に完全な趣味としてカレーをつくり続けてきた。イベントやケータリングを中心に提供してきたカレーは、友人たちから「お前のカレー美味いからお店やってみれば?」とまで絶賛されるほどの評判を得ていた。





「サラリーマン時代に、自分にはこれから何ができるかなと考えたとき、カレーしか残らないなと思ったんです。カレーは趣味でつくっていただけで、そこまで研究熱心ではないし、これをやらなきゃダメというスタンスでもないから、ある意味で気楽にやれるんですよね。好きなことをやり続けてお客さんが付いてきてくれたら最高だし、『やったもん勝ちだ』と思ってカレー屋を始めようと思いましたね。ストイックに思い詰めずにできるとはいえ、真面目にやっていることには変わりないから大変なんですけど。僕の持論には、自分のなかで2番目に好きなことがうまくいくというのがあって。ずっと1番は音楽とバンドだったんだけど、うまくいかなかったんです」

「2番目に好きなことがうまくいく」と聞いて、なるほどと思う。1番好きなことよりも思い詰めない分、割切りも諦めもつきやすい部分があるのだろう。音楽で実現できなかったことを「YOUNG」に持ち込んだりもしている。

「昔バンド名で『YOUNG〜』って付けたかったんですよ。それを自分の店で一番わかりやすい形でやっちゃったっていう(笑)。一言で言えて、キャッチーで字面がいいし、太い線でロゴを作りたかったんです。ずっと長いことやっていくならば、潔い名前がいいなと。実際にYOUNGっていうバンドがあったことをこの前知って。そのメンバーの方がお店に来てくださったんですよ」


名前が決まり、オープンまでの流れもスムーズに事が進んでいった。内見の翌日からは不動産屋と具体的な話を重ねて契約。内装も満足のいくデザインに仕上がった。

「チーコさんから紹介してもらったSTUDIO DOUGHNUTSとの出会いがものすごく大きくて。彼らとはすべてのイメージを共有できたし何でも意見を話せて、心から納得できる空間が出来上がりました。こう改めて考えると、チーコさんなしにこの店は生まれていないですね。内装でイメージしたのは、いやらしくなく、今っぽくもない、老舗のかっこいいお店が創業したときの感じ。だから、最初からエイジングしているような家具を置くのはやめようと思って、お店とともに自分も成長していけるような潔いシンプルさみたいなものを意識しました。と言っておきながら、カレーのスプーンにアンティークのスッカラを使っているんですけど(笑)。オープンして1年半が経って、内装が少しずつ空間に馴染んできましたね。自分は嘘っぽくなっちゃうのがすごく嫌なんですよ。嫌いなことはやらない、好きなことしかやらない、嘘はつかない。それが『YOUNG』を始めるうえで自分に対して決めた約束なんです。かっこよく言えばね(笑)」

メインはカレーじゃなくてお店そのもの

昔から漠然と抱いていたお店への憧れ。自分が好きなことをするための場所として、内装以外にも「YOUNG」には梶原さんのやりたかったことが凝縮されている。

「『YOUNG』は自分の欲望を満たす究極の場所ですね。自分が行きたい店にするっていうだけ。デートでお洒落なお店に行くと、ご飯の量が少なかったりするじゃないですか。僕はそれが嫌だから大盛りを無料にしていて。女性も喜べて男性も行きたくなるお店っていうんですかね。全部が受け入れられるかわからないけど、自分にはそれしかできないよねって。だから真面目にやりたいこと、いいと思ったことはやりきろうと。そういったことをすべて叶えるために初期投資を頑張りました(笑)。ここはね、カレーじゃなくてお店がメインなんですよ」



カレー屋だけれども、自分自身が本流の料理人であるという意識はない。だからこそ、この空間を使って自分自身のあれやこれやを表現したというわけだ。オリジナルのTシャツとソックスもつくって販売したのも、いたって自然な流れのように感じる。

「カレーだけを切り取られると、自分は大したことないと思っていて。カレーに詳しくないしお店もそんなに知らないし。スパイス系のカレーは食べますけど、普段はあまりカレーを食べないようにしているんですよ。特にウチみたいな欧風系の美味しいお店を知ってしまうと、そこのカレーに寄っちゃう癖があって(笑)。オークラとかのホテルのカレーを食べたのも15年前くらいが最後ですからね。なので、味の漠然としたイメージは残りつつも研究はしないというか。どちらかといえば、ラーメンやとんかつとかから得るもののほうが大きいかもしれなくて。なんというか、自分の中にある雰囲気を再現したいだけなんです。それなりの美学はありますけど、プロだとは思っていないんですよ」

いつか「YOUNG」を“キッチン”に

カレーが自身のコミュニケーションツールになったことで、たくさんの出会いに恵まれた。さまざまな縁はお店の中にも反映されている。たとえば、カレーの盛り付け皿はケータリングの現場で出会ったマルヒロによる波佐見焼のプレートだ。

「色使いもポップだし耐久性もあるんですよね。このプレートにレモン型に入れたご飯を盛りつければ、円に収まってきれいに盛り付けられるんですよ。誰でもできるようにということは考えていますね。あと、コーヒー豆は同級生が焙煎しているものを使っていて。そいつは川越で『tango』(移転準備中)というお店をやっていて、最初のケータリングはそこでやったんですよ。コーヒーも詳しくないものだから、なんとなくカレーに合う昔ながらの深煎りのコーヒーがいいなって」

同世代の誰かと何かやりたいという気持ちも湧いてきた。「KAISO」で焼き菓子とケーキをつくっている「SCENT」の鈴木奈緒子さんに依頼して、「YOUNG」オリジナルのプリンを唯一のデザートとして提供している。シルバーの台座に置かれたプリンの上にはホイップとチェリーが乗っていて、なんともフォトジェニックなビジュアル。美味しさは言わずもがな、見ても楽しめるプリンは売切御免のキラーコンテンツだ。ところが、このプリン人気が梶原さんを悩ませているという。

「ありがたいことにカレーが完売になって、早くクローズさせていただくこともあるんですけど、最近はカレーよりもプリンの評判が先行しているところは正直否めないですね。人によっては、ウチは『カレーも美味しい店』になっている感があるのかもしれない(笑)。まあいいかという感じですけど、ナオちゃんのプリンのおかげで、もっとカレーを頑張らなきゃという気持ちになりましたね」

お店を始めたからこそわかったことがある。ケータリング以上に飲食店での勤務は体力的にハードだったということ。忙しいに越したことはないけれども、閉店後に客席で抜け殻のように意味もなくぼーっとしてしまうこともあるのだとか。また、宣伝を兼ねて使っているInstagramの告知の内容も、あるときにオープンのことを「オペン」と言いはじめて以来、後に引き下がれなくなった。

「Instagramの投稿は業務のひとつとはいえ、自分を追い詰めていますね(笑)。お店始めちゃった的なノリもあったけど、将来的に「YOUNG」はキッチンっていう響きが似合うお店にしていきたくて。そういう意味では、内装としてはカレー屋よりも洋食屋を意識したのかも。今はもっと自由に動かせるお金が切実にほしいです。いつかはカレー屋じゃないお店を出してみたい気持ちも漠然とあるけど、ギラギラした野心は持たずに自分に嘘がなく発展していければいいなというのがすべて。誰でもつくれるカレーという意味では、レトルトカレーの製造工場みたいな場所をつくりたいですけどね。…それって野心ですね(笑)」

お店のドアを開けて店内に入ると、「YOUNG」と書かれた蛍光管のサインが目に入る。この場所から自分が調理している姿をお客さんの視界に入るようにしたのは、身近な距離で「ありがとうございました」と「ごちそうさまでした」のやりとりをしたかったから。長くお店を続けていくうえで支えになるのは、お客さんからの感謝の言葉だったりする。それをモチベーションにして、今日も明日も「YOUNG」はオペンし続けていく。



YOUNG

住所:東京都世田谷区代田5-1-16

TEL:050-1454-9173

営業時間:12:00~15:00 / 18:00~21:00(20:30 L.O)

定休日:火曜、第3日月曜

 

YOUNG Instagram アカウント

https://www.instagram.com/young_cityboycurry/

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