Cat’s Meow Books

安村正也さん

最寄り駅
西太子堂

猫カフェでもなく、ただの本屋でもない。猫に囲まれて本を選べるという、いままでにないコンセプトで話題の本屋「Cat’s Meow Books (キャッツミャウブックス)」が、世田谷線・西太子堂駅にオープンした。以前、「人びと」でも紹介した「酒の唐木屋」の左脇の道を通ってすぐの一軒家で、かわいい猫のイラストが描かれた看板が目印。このお店には、店主の安村正也さんのほかに、愛らしい店員猫が5匹おり、奥の扉を開けると、猫たちがのんびりと店番をしていた。

文章・構成:薮下佳代 写真:藤田二朗

「猫」をテーマにした、小さな本屋さん

ここにあるのはすべて「猫」に関する本で、新刊、古本合わせて約2000冊を取り揃える。猫そのものをテーマにした実用書や写真集、絵本だけでなく、猫が登場する小説などの読み物もあり、ほかにも哲学、科学や物理、経済といった、一体猫とどういう関係があるのか?と思える本も並んでいる。猫というテーマだけでこんなにも本があるのかと驚くばかりだが、店主の安村さんがコツコツと集めてきた本に加えて、本屋のオープン前にはリサーチを繰り返し、猫に関する本をひたすら集めてきたのだという。

「もともと本が好きで、猫の本を夫婦で集めていたんです。いつかもっとたくさんの猫の本に囲まれたらいいなという思いが発端で、自分で本屋を始めることになりました。うちだけじゃ大手の本屋に到底太刀打ちはできませんが、個性的な選書が売りの個人の本屋がもっと増えていって、それらがつながっていったら、すごく楽しい世の中になるんじゃないかと。そのきっかけになれたらという思いでやっています」

新刊本は、チェーンの大手書店だろうと、ネット書店だろうと、どこで買っても価格は一律で変わることはない。では、こうした小さな町の本屋で買ってもらうためには、どうしたらいいのか。安村さんが考えたのは、「ここにしかない付加価値をつける」ことだった。

たとえば、売り上げの1割を飼い主のいない犬猫の保護を行っている団体に寄付したり、オリジナルのイラストが描かれたブックカバーをつけたり……。そして、この店の一番の売りとなるのが、安村さんの飼い猫であり、この本屋の“店員”として常駐している猫たちの存在だ。お客のほとんどは、この猫たちに会いに、この店へやってくる。

店の奥にもうひとつ扉があり、その向こうでは猫たちがのんびりと昼寝したり、自由に歩き回ったりと思い思いに過ごしている。テーブルセットが置いてあり、そこで買った本をじっくりと読むもよし、コーヒーやビールを注文して、猫たちを眺めるもよし。時には猫からすり寄って来たり、膝の上に乗ったりすることもあるそうだ。

取材に伺ったある日の午前中には、3匹の猫が窓辺で気持ち良さそうに日向ぼっこしていた。店内を元気に走り回るキジトラ♀の読太(よんた)、涼しげな顔して遠くから様子を伺うキジトラ♀の鈴(すず)、しっかり者のキジシロ♀のチョボ六(ちょぼろく)。黒猫のさつき♀は2階にある自宅で休憩中だったが、途中で遊びに来てくれた(店長のキジトラ♂の三郎は16歳と高齢のため、残念ながらなかなか下には降りてこないのだそうだ)。2階とは自由に出入りできるように天井が開いており、本棚の中を回廊しながら、2階へと続くユニークな造りになっている。

本と猫の「幸せな関係」を築くためにも、猫にとって「幸せな環境」を整えることを第一に安村さんは考えた。そのため、猫カフェのように必ずしも猫に会えるとは限らない。猫たちが自由に行ったり来たりできるぶん、ストレスがない環境で暮らしているからだ。とはいえ、人なつっこい性格の猫たちは人に会うのが好きなようで、いつも4匹のうち誰かしらがこのスペースでのんびりと過ごしているそうなので、ご安心を。

本×猫。好きなものをかけ算してみたら

安村さんが小さい頃から好きだったという「本」と「猫」。別々のものだったこの2つを組み合わせて「本屋」を始めるという、ありそうでなかったこのアイデアは、一体どこから生まれたのだろうか。

「今年で50歳になるんですが、人生の折り返しを迎えて、老後をどうしようかと考えてみたんですね。そしたら、好きなものに囲まれて過ごしたいなと。じゃあ、好きなものって何だろうと考えた時、本と猫とビールの3つだったんです」

本も猫も、安村さんにとって、小さな頃からいまも変わらずなくてはならない存在だった。しかし、昨今の猫ブームの影でいまだに多くの猫たちが里親が見つからないために殺処分されているという現実や、町の中から本屋がどんどん消えて無くなっていく悲しい現実を目の当たりにし、どちらも社会的に弱い存在であり、守るべき存在だとつねづね感じていたのだという。

「なかなか里親のつかない保護猫たちを迎え入れて店の看板猫になってもらい、お客さんを呼んでもらうことで本屋を助ける。そして本屋の売り上げから保護猫の団体に寄付をして、猫を守る。そうやって互いに助け合う関係を作ろうということで、この本屋のコンセプトが生まれました。最初は『好きなものに囲まれたい』という漠然とした夢が、突き詰めてかたちになったのがこの本屋なんです。本と猫って、好きな人も多いですし、こういう空間があったらいいなと願っていた人はたくさんいたはずなんです。ただそれを具現化した人がいままでいなかっただけで。だから、自分がこの本屋をやると公言した時から、先を越されたら困ると思って、1年でオープンまでなんとかこぎつけたんですよ(笑)」

安村さんのこの夢を後押しし、具現化するきっかけとなったのが、numabooks代表で、ブック・コーディネーターとして活動する内沼晋太郎さんだった。「BUKATSUDO」というシェアスペースで開催されている「これからの本屋講座」に7期生として参加した安村さんは、“いままでなかったけれど、あったらいいなと思う本屋のかたち”として「キャッツミャウブックス」のアイデアをプレゼンしてみたところ、内沼さんに「おもしろいからやってみれば」とアドバイスされた。そこから具体的に事業計画を練り、出店地域を探して、と次々に課題を出されたのだという。

「本屋業界のことを勉強しようと思って軽い気持ちで行っただけだったんですが、2カ月半の間に本気になってしまって。人生を狂わされた恩師が内沼さんなんです(笑)。本屋講座に参加して、店をオープンするまで実質1年半ぐらいと、あっという間でしたね」

「いつか」という夢は、「いつしか」現実に。安村さんの実行力にはただただ感服するばかりだが、2017年8月にオープンして約9カ月が経っても、本人はいたって冷静だ。安村さんはお店のオープン後も会社員を続けながら、平日夜と土日のみ店に立つ。それ以外は、妻の真澄さんが接客を担当している。

「始めるのは勢いで始められるんですけど、大切なのは続けることだと思っていて。大切な家族も増えたわけですし、あとはどうやってこの事業を軌道にのせていくか。1年前にはまだこのお店もありませんでしたし、これから1年後もどうなっているのかわかりませんが、楽しく続けていければ」

本と猫と人。良き関係が続いていくためにできること

店員猫たちは日中、窓辺で外を見て過ごすことが多いため、道行く人たちはそのかわいさに釘付けになり足を止めることもしばしば。子どもも大人も、猫に向かって手を振っている姿がなんともほほえましい。

「もともとあった目隠し用の塀は取り除いて、外から見えるようにしたんです。人間の目線の高さまではロールスクリーンをかけることで、中にいても外にいても視線を気にすることなく猫と目が合うようになっています。窓がたくさん採れるのもこの物件に決めた理由のひとつでした。猫は外を見るのが好きですし、窓があることで、ここは猫がいる本屋なんだと認識していただいているようなんですよ。あとは、この物件を見に来た時に、道端で猫がうろうろして鳴いていて、猫にやさしい町なんだなと思ってここに決めました。猫に呼ばれた感じですね」

最寄りは世田谷線の西太子堂駅だが、三軒茶屋からも歩ける距離。だが、もともとは松陰神社前で物件を探していたそうで、小さな店が点在する、その規模感と距離感に憧れていたという。

「松陰神社前の駅前には山下書店とnostos books、2軒も本屋があってとても魅力的だなと思っていたので、そこにうちも入りたいなと思っていたんです。でも物件がなかなか見つからなくて。遠くからわざわざ人が集まるパン屋さんやケーキ屋さんのように、世田谷線に本屋がもっと増えて駅ごとにあったら、はしごもできて、もっとおもしろくなると思ったんです。本屋だけでなく、そうやって小さいお店同士がつながれたらいいなという思いもあって、世田谷線を選びました」

また、世田谷線沿線は住宅街ということもあり、賃貸物件に住んでいる人や一人暮らしの人も多く、猫と暮らしたくてもなかなか飼えないという人も。そうした人も猫に会いに来てほしいと、会社帰りに立ち寄れるよう22時まで開いていて、コーヒーだけでなくビールも置いている。生ビールのほか、「水曜日のネコ」というクラフトビールは、水曜日ならば50円引きなのだとか!

「猫好きな男性が猫カフェには行きづらいかもしれませんが、本屋へビールを飲みに行く感覚でなら来やすいんじゃないかと。本屋として遊びに来てもらって猫を好きになってもらえることもあると思いますし、猫目当てで来てもらっても、これだけ本があれば何かひとつくらいひっかかるものがあるかもしれない。普段本を読まなくても猫がきっかけで本との出会いになればという狙いもありました。どんなきっかけであっても、本と猫を好きになってもらえたらうれしいです」

店名の「キャッツミャウ」とは「最高のもの、人」という意味のスラングだそうだ。本と猫に出会えるなんて、それだけで「最高な本屋」だけれど、このお店を訪れて、本を購入したり、ビールを飲んだりすることで、本と猫を応援することができるのなら、こんなに最高なことはないだろう。

Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)

住所:東京都世田谷区若林1-6-15

TEL:03-6326-3633

営業時間:14:00~22:00

定休日:毎週火曜日

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