stock

オギハラナミさん

最寄り駅
経堂

小田急線「経堂」駅の北口から、すずらん通り商店街を真っすぐ歩いて約10分。昔ながらの青果店や焼き菓子店、和菓子店、味のある居酒屋を通り過ぎたところにひょっこり現れるのが、マスキングテープなどを使った作品が人気のコラージュ作家・オギハラナミさんの営む雑貨店「stock」だ。外から店内を覗くと、小さな棚に包装紙や紙袋、封筒などの紙ものをはじめ、どこかレトロでなつかしい日用品が、隙間も惜しむようにギッシリ詰まる。キッチュでポップな色の洪水に埋め尽くされる店内を見ていると、まるで宝探しをするような気分に浸らせてくれる。

文章:仁田ときこ 写真:阿部高之 構成:鈴石真紀子

素朴でなつかしい雑貨を探して

子どもの頃から雑貨が大好きで、中学生になった頃にはチープでカラフルなアジアの雑貨にすっかり魅了されていたオギハラナミさん。「そのなかでも中国やアジアの雑貨がたくさん揃う「文化屋雑貨店」に憧れていて。子ども心に東京のお店にいつか行きたい!って、中学時代にずっと思っていたんです。当時、私が住んでいた広島にも「文化屋雑貨店」の商品を扱うお店があって、『あ、これ「Olive」に載っていたお店だ!』と思って、高校の修学旅行でわざわざ行って買った思い出もあります。高校では美術部に入り、そこでコラージュを製作する楽しさに目覚めたんです。短大に入っても、コラージュ作品をたくさん製作しましたね」

そう話すオギハラさんの目線の先には、壁に飾られた自身のコラージュ作品。2008年から毎年発表しているオギハラさんのコラージュカレンダーだ。サイズは毎回同じで、やや厚めの紙に印刷された月ごとのポップなコラージュ作品にはファンが多く、手帖に貼って使っている人や、額縁に入れて飾っている人も。使い終わったらカードとして使う人もいるほど。

「短大を卒業してからは雑貨屋さんでアルバイトしたり、手がけたコラージュ作品の展示会をしたり、20代はすっかりハンドメイドと雑貨の世界に身を置いていました。その頃から、いつか自分の好きなものを集めたお店ができたら良いなぁって、漠然と感じていたように思います」

転機になったのは、30歳で初めて訪れたニューヨーク。旅慣れした友人に付いて、ニューヨークを旅したのがオギハラさんにとって大きな影響を与えた。「その友人はカフェの店長をしていて、海外のおいしいお店にすごく詳しかったんです。チャイナタウンやブルックリンのレストランに毎日連れて行ってもらって。英語は全然話せないものの、異国を旅する楽しさを知りました。あと、現地の紙袋がとってもかわいくて! 日本にはないデザインにすっかり魅了されて、お店ごとの紙袋をたくさん集めましたね」。その旅をきっかけに、“毎年、海外へ行こう!”という気持ちがかたまったオギハラさん。お金を貯めては、タイ、ベトナム、ロシア、アルゼンチンなど、そのとき気になる国を訪れるのがオギハラさんのなかで欠かせない年間行事になっていったという。

念願のお店をオープンするも、予期せぬ閉店へ

雑貨、旅、コラージュ。オギハラさんのなかで大きな割合をしめる3つの存在。いつしか、それらが詰まったお店を一度は持ちたいと思うようになっていった。

「松陰神社前や世田谷に12年も住んでいたので、このあたりのエリアには昔から馴染みがあったんです。すずらん通り商店街にはまだ「ロバロバカフェ」(器や雑貨、本が扱うギャラリーカフェの先駆的存在。現在は山口県に移転)があって、しょっちゅう遊びに寄らせてもらっていました。私自身もロバロバカフェでコラージュの展示会をさせてもらって、経堂がどんどん身近な場所になっていったんです。そのうち、すずらん通り商店街に「ハルカゼ舎」(国内外のユニークで実用的な文具を扱うお店)がオープンして、親しくさせてもらっていたので、雑貨店を開くならこの通りがいいなぁと思うようになっていきました。でも、なかなか場所が見つからなかったんです。そのうち、経堂とは離れていますが、千石駅の近くにある、120年前から続く長屋を紹介してもらったんです。もともとは、発酵料理を手がける料理家・塩山奈央さんのアトリエで、私がそのあとを引き継ぐ形で貸してもらうことになって。のんびりした周囲の環境も良くて、良い場所と出会ったなぁと思って念願のお店をオープンしました」


そうしてとうとうオープンした千石のお店「stock」は、希少な紙袋、布モノ、日用品が並び、全国の雑貨好きが訪れるマニアックな存在になっていく。遠方から訪れる人も多く、そういった人は時間をかけてゆっくりとひとつのものを選んでくれるので、同じ紙好きとしてうれしかったそう。けれど、しばらしくして、オギハラさんの予期せぬ事態でお店が閉店に。なんと、建物の老朽化によって早々に取り壊すことになってしまったのだ。なんとかオープンまでこぎつけたものの、実質、お店を営業できたのは約1年半だったという。移転するか、お店をやめるかで随分悩んだオギハラさん。

「父親からは、もうやめた方がいいんじゃないかと言われました。父はずっと製図用品メーカーで営業として働いていた人で。「雑貨屋は大変だから」と心配していたみたいです。他の家族は応援してくれていたんですけどね。そのうち、私自身がお店はもとより、物づくりを続けていくかどうかも悩み始めて……。そんなとき「経堂のすずらん通りに空き物件がでた!」ってお店をやっている友人が教えてくれて。取り壊しで移転先を探していることを不動産の方に必死に話して、やっと入居が決まったときはホッとしました。千石のお店はとても気に入っていて、ずっと通ってくれたご近所のお客さんもいたので後ろ髪を引かれる思いだったのですが、経堂は馴染みのある街だったので安心感がありました」

再び、懐かしの経堂へ。stock!再始動

いよいよ経堂で始まった第二の「stock」。千石のお店よりもやや広くなったため、新しく家具を買い足すことに。そんな家具のなかでも思い出深いのが、タイで購入したフロントのシェルフだ。雑貨の買い付けにタイへ行った際「荷物を100kg以上だと配送代が安くなるよ」と現地の配送会社の人に言われ、向こうの古道具屋で棚を購入していざ送ってみたら、タイに2~3回旅行できるほどの金額に跳ね上がってしまったという。「英語は話せないし、現地の人も結構いい加減だから、いろんなトラブルにあいましたね(笑)。でも、それも買い付けの旅の醍醐味なんです」

そうして世界のさまざまな国から集められた雑貨は、どれもこれもオギハラさんが惚れ込んだものばかり。まず、お店に入って一番に目に飛び込むのは、懐かしさが漂うシール類だ。小学校の頃によく見かけた何気ない丸いシールから、「巨峰」や「王林」といった果物の名前が記されたシールも。「この果物のシールはおそらく、農家さんが出荷のときに商品に貼るシールだと思います。『どうやって使ったらいいですか?』という質問もありますが、私は果物にまったく関係のないものをラッピングするときに貼ってもかわいいと思うんです!」と、ラッピングについて語るオギハラさんは、とてもイキイキしている。

日本のビニール袋と違い、極彩色に染まったカラフルなビニール袋はベトナムで買い付けてきたもの。イチゴのイラストがプリントされたビニール袋も、どこか粗雑でチープで、独特の存在感。中に物を入れると中身が絶妙に透けて、ラッピングアイテムとして多彩に活躍しそう。


クルクルと丸めて、ロール状に1本ずつまとめたフィルムペーパーも実に豊富だ。メタリックなものやツルツルしたコート紙のもの、レトロな上質紙など、さまざまな種類が並ぶ。これを見るだけで、ラッピングしたい気持ちがわいてくるから楽しい。

モロッコのミントティーグラスも窓辺にズラリと並び、差し込む陽射しと重なって美しい佇まい。型にガラスを注ぎ込んで作っているそうで、ひとつずつのガラスの厚みが異なるところや個性的な歪みがあるところに愛着がわいてくる。


日本ではすっかり市場で見かけなくなったプラスチックのカトラリーや器もこのお店ではしっかり健在。オギハラさんがタイの市場で発掘してきた昭和感満載のプラスチック類には、どこかチープで愛らしい表情が宿っていた。「とはいえ、タイのプラスチックのスプーンは何気に進化しているんですよ! 昔より随分きれいな作りになって、粗雑な雑貨好きの私にはちょっと残念なくらい(笑)」と、雑貨の移り変わりも愛おしそうに語る。

自分でラッピングする、ワクワクする気持ちを

販売する商品に混じって、店内にはオギハラさんがラッピングした作品も何気なく飾られている。これらを眺めていると、包装紙やリボンが違うだけで、表情はこうもガラリと変わるのかと感心してしまう。実際に、オギハラさんお気に入りの焼き菓子店「Paddbre(パドブレ)」で購入したクッキーをラッピングしてもらった。


ラッピングに用意したのは、意外にもオクラを入れる網の袋。ただし、これだけを見ると、オクラを入れる袋に見えてこないから不思議だ。一見、武骨な印象の網だけに、愛らしいクッキーとどうマッチするんだろうと疑問に思っていると、意外にもスケスケの網からクッキーの姿がチラリと覗いて、焼き菓子の持つかわいさが増してくる。口の部分はレトロな包装紙をホチキスで留めるだけ。たったこれだけで、付加価値が増したようだ。

「オクラの袋もラッピングに使えるんだ!?って、まず驚きますよね。これをもらった人もその意外性を楽しんでほしいな、と思います。ラッピングする本人もテンションがあがりますよ」

そして、瓶に入ったコンフィチュールのラッピングもスタート。ここで用意したのは、果実を育成するときに実を包む果実袋だ。果実をきつい陽射しや雨風、害虫から守るためのもの。ほんのり透け感があり、ワックス加工もされているので、意外にも紙好きの間では人気のアイテムだとか。

「ラッピング方法は、いたって簡単。瓶を果実袋で包んで、口をキュッとねじるだけ。なかの瓶がやや透けて見えて、かわいいんですよ」

なるほど、コロンとしたコンフィチュールの可愛さがさらにアップ。今回も、ラッピングひとつで商品の魅力がグンと増すのを目の前で見せてもらった。

そう、ちょっとしたアイデアでラッピングはもっと自由に楽しめるのだ。このお店を訪れるお客さんは、そのことをよく知っている人が多い。包装紙の他にも、店頭にあるアップリケや鈴、ポンポン、レース、リボンなどを使って、自分なりの方法でラッピングを生み出しているという。「そういう使い方があったんだ、と私も教えてもらっています」

そんなオギハラさんは、身近な素材と色合わせで楽しむラッピングアイデアを紹介した「雑貨&フードラッピングブック」(誠文堂新光社)を2017年に発売した。パウンドケーキやマフィンなどのスウィーツに、マフラーやセーターなどの具体的なアイテムに合わせたラッピング方法をなんと150種類近くも紹介している。基本的な包み方はもちろん、アレンジを効かせたものまで、初心者にもできそうなアイデアが満載だ。こちらも店頭で発売しているので、誰もが始められるラッピングの指南書としてぜひどうぞ。

年数回の旅から持ち帰られる個性的な雑貨たち。オギハラさんの旅の記憶が詰まったこの場所で、これからどんなアイテムと出会えるのか楽しみだ。

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住所:東京都世田谷区経堂2-25-13
営業時間:12:00〜18:00
定休日:火曜、水曜、不定休あり

ホームページ:http://stock-sengoku.jugem.jp/
Instagram:@stock_namiogihara

 

(2019/10/01)

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