特集

せたがやンソンの音楽 vol.1|Keishi Tanaka

世田谷ミッドタウンと関係を持つ人物が、その街の魅力を紹介するとともに、ミュージックプレイリストを添える『せたがやンソンの音楽』。第1回目に登場するのはシンガーソングライターのKeishi Tanakaさんです。ケイシさんがアテンドしてくれたのは、かつて暮らしていた経堂の街。約10年も住み続けたことで変わってきた街の楽しみ方。その変化について自身の音楽活動のスタンスを交えながら語り、経堂の街で聴いてきた音楽たちをプレイリストにして紹介してくれました。

文章・構成:加藤将太 写真:鳥居洋介

アウェイをホームに変えていく

ケイシさんのライブツアーはバンド編成と弾き語りソロの2パターンがある。前者の場合は総勢最大10人という豪華編成に対して、後者は自身の歌とギターのみ。冒頭でも述べたとおり、4月から7月にかけて、アコースティックギター1本を持ち全国37箇所を巡る「ROOMS」という自主企画ツアーを開催。そんな精力的な音楽の旅を通じて、自分が好きな街はすずらん通りと似た雰囲気を持っていることに気づいた。

「全国の街を回っていても、今の34歳の感覚で楽しめることを無意識に探しているというか。だから、僕が無意識に求めている街の空気や匂いもすずらん通りみたいな商店街が近いのかもしれないなって。『ROOMS』はバンドのツアーじゃないけど、基本的に一人で食事をするということはあまりなくて。会場ごとにその土地の友達に連絡してブッキングをお願いしているから、現地ではその人たちと昼飯を食って、リハしてライブして打ち上げという流れの繰り返しなんです。バンドとは違うから、カウンターしかない小さなお店にも入れるのは嬉しいですね。よくバンドでツアーしていると、連れて行きたい店があるのに大所帯で入れないと言われることがあって。弾き語りソロの時は、そういうところに連れて行ってもらえたりする。もちろん食事を目的にツアーしているわけではないけど、ツアーを楽しむ上では重要なことですね」


「ROOMS」では、日本各地の会場を一日単位で移動してはライブするというストイックな毎日の繰り返し。一時的に東京よりも地方で過ごす時間のほうが長くなると、地方での生活に興味が芽生えて、生活拠点を移すことも頭をよぎったりしないものだろうか。

「『ROOMS』には、なぜ僕は東京でわざわざ高い家賃を払って暮らしているんだろうという疑問も秘めながら続けていて。ツアーから東京に帰ってくる度にホッとしている自分がいるけど、たしかに、東京での生活はもういいかなって思っちゃうくらいに素晴らしい場所に行っているんですよね。各地の人たちはそれぞれ大変な部分もあるだろうけど、みんな幸せそうで。でも、北海道から東京に憧れて上京してきた身としては、まだまだ東京でやりたいことがある。その立場としては、東京・世田谷ってそんなに良いんだって憧れる若者が出てくるような活動をしなきゃなって。東京も地方の一都市と変わらないとも思う部分はあるんです。そういうことも含め、ツアーで気持ちが豊かになっている部分は確実にありますね」

もしかしたら、いつかは東京を離れるかもしれない。まだずっと先の話かもしれないけれども、今は東京・世田谷が自分の肌に合っているのは確かだ。

「この街いいなと思える瞬間が世田谷にある限りは、東京の中心にも、東京以外のところにも生活拠点を移そうとは思わない。ただ、音楽をやる上で東京が自分のホームという感覚はそこまでないんです。ライブをやるときの感情って、渋谷、大阪、鹿児島や北海道でも関係なくて、どこでも一緒。さらにいうと、初めて僕を観る人がいる方が楽しいんですよ。もちろんホームの空気感は心地よいし、とても心強くて、その人たちと一緒に後ろの方まで僕の音楽を届ける感覚。ライブをしているうちに全体がホームに変わっていくことが僕にとっては重要で、限られた時間の中で伝わらないと、いいライブではないなと思っています。そう考えると、ホームでワンマンライブばかりをやるのは自分の性格に合わないのかも。自分がやるべきことは、すべてのお客さんに歌と演奏を届けるということだから」

先日、ケイシさんは初めてツアーで佐世保を訪れ、アメリカ海軍の基地がある特殊な港町に興味を持った。駅を出ると、目の前には佐世保湾があるという綺麗なロケーション。すこし離れるとドルで支払うお店が並ぶ地域もあったりするという話を聞いただけで、もっと知りたい気持ちになったという。

初めての場所は訪れるだけでもわくわくするものだ。最初はアウェイでも、街を歩き、その街の人々との交流が生まれると、自分の新しいホームタウンに思えてくるかもしれない。あなたにとって何番目のホームタウンかはわからないけれども、世田谷ミッドタウンの街もそうあってほしい。

Keishi Tanaka(ケイシ タナカ)

Riddim Saunter解散後、ひとりのミュージシャンとして活動をスタート。2016年に3rdアルバム『What’s A Trunk?』をリリースし、詩集『真夜中の魚』も発売になったばかり。2015年までに、『Fill』『Alley』のフルアルバム2枚の他、詩と写真で構成された6曲入りソングブック『夜の終わり』や、絵本『秘密の森』など、自身の世界観を表現する多様な作品を発表している。細部にこだわりをみせる高い音楽性を持ちながら、さまざまなラジオ局でパワープレイに選ばれるなど、幅広い層に受け入れられる音楽であることを証明。最大10人編成で行われるバンドセットから弾き語りまで、場所や聴く人を限定しないスタイルで活動中。自主企画として、バンド編成の「NEW KICKS」と、アコースティックの「ROOMS」を不定期に開催。

http://keishitanaka.com

トップへもどる
Fudousan Plugin Ver.1.6.3