特集

せたがやンソンの誘惑|VOL.1

スウェーデンに伝わる定番家庭料理のひとつにグラタン料理が挙げられる。その別名を”ヤンソンの誘惑”と呼ぶことと、世田谷由来の食材を使って料理をつくろうという意味からはじまったのが、この『せたがやンソンの誘惑』。記念すべき第1回は『せたがやライド』にて立ち寄った、上祖師谷で養鶏と養豚を営む吉実園の有精卵を含んだ4種類の塩麹料理レシピ。ゲストに塩麹料理の火付け役、おのみささんを迎えて、誰でも簡単につくれる塩麹料理を紹介してもらいました。

編集:加藤 将太 文章:軽部 三重子 写真:古家 佑実

実験みたいなワクワク感

まずは、おのみささんの紹介を兼ねてそのプロフィールに触れよう。

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麹に注目が集まる以前の2010年、『からだに「いいこと」たくさん 麹のレシピ』を執筆し、麹料理研究家としてメディアに引っぱりだこになった、おのさん。世田谷ミッドタウンに自宅兼アトリエを置く、このエリアの住人のひとりでもある。レシピを紹介する手はじめに、麹との出会いからブームになったいきさつ、麹の魅力、この街の魅力、これからのことなどに幅広く答えてもらった。

手はじめに、麹との出合いから伺う。もともとデザイン事務所で働き、フリーのイラストレーター・デザイナーとして活躍していたおのさんは、なぜ麹の研究をはじめたのだろうか?

「友達からお味噌をつくったっていう話を聞いて、私もつくってみたんですよ。すごい面倒くさいのかと思ったら、意外にそうでもなくて。大豆を茹でて、フードプロセッサーで潰して、茹で汁と塩と麹を混ぜて、寝かせるだけなんですよね」

そのとき、ちょっとしたアクシデントから、麹に興味をもつことになる。

「夏だったこともあって発酵が進んで、ジップ付きの袋がパンパンに膨れちゃったんです。で、空気を抜いて置いておいたら、またパンパンに膨れるんですよ。ジップを閉じてるのに何でこんなに息するんだろ、この子たち!って興味が湧いて(笑)。その生きてる感じがすごく面白かったんですよね。ただの大豆と塩と、よくわかんない麹が入ってるだけなのに、しばらくしたらちゃんとお味噌になってるし。実験が好きなんですよね、私」

そこから、レシピ開発も手探りのまま、実験のごとく進んでいく。

「何かのマンガに塩麹がちょこっと載っていたことがあって、それだけの情報をもとに試しに何が正解かわからないまま塩麹をつくってみて。で漬け物に使ったり、お肉にまぶして焼いてみたら美味しくて、おぉ!って感動しちゃいました。それで塩麹の本を出したら面白いんじゃないかと思ったんです」

出版までに一難。ブームでまた一難…

そして、本の出版に向けて動き出したおのさん。企画書の書き方から学んで、自ら営業をはじめたものの、そう簡単に話は進まなかったという。

「今みたいに塩麹が注目されているわけでもなく、知られた料理研究家でもないので。類書があって売れてる実績があったらいいけど、って断られ続けてましたよ」

そんな中、家で料理をふるまっていたときに転機が訪れる。友人のひとりが編集者を紹介してくれることになり、その編集者と意気投合。協力の甲斐あって、出版にこぎつけることができた。

「それからも、どんな本にするのかとか、料理できる人もいないので私がすることになったんですけど、料理のこともわからないし、みんな手探りで。協力してもらってやっと本になった感じです」

こうして、”麹料理研究家おのみさ”が誕生。麹が雑誌に取り上げられたこともあり、じわじわと取材が増え、テレビの情報番組で一気に塩麹ブームになった。

「震災で保存食が見直されたっていうのもあって、カラダに良くて珍しい、新しい万能調味料ってことで人気になって。ぎゃー、どうしよう!って感じでやってましたね。麹が一気に街からなくなっちゃたりするし、私が困りましたよ。『取材が来るのに麹がない!』って(笑)」

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ここで、あらためて麹について紹介すると・・・麹とは、蒸した穀物に麹菌をあわせて、繁殖させたもので、米を使った米麹のほかに、麦麹、豆麹などの種類がある。味噌のほか、醤油、日本酒、焼酎などの原料でもある。

「市販のものは発酵を止めてしまっているので、手作りの方がイキイキとした酵素が摂れるのでオススメですよ。簡単に作れますしね。2回目以降は、前回つくった麹を混ぜれば早くできます。保存方法は常温でも大丈夫ですが、発酵が進むので心配だったら冷蔵庫に入れてください。一番美味しく使えるのは、つくって2~3ヶ月の麹かな。半年経つと茶色っぽくなって熟成した大人の香りがします(笑)。私はたくさん使うので、そこまで量が保たないですけどね。麹は飽きないし、合わないものがないっていうくらい、何にでも合わせられるので」

さすが、この辺りは麹料理の第一人者。マヨネーズ+塩麹+オリーブオイル、カレー粉、ウスターソースなど、こんなものとも合わせられるの?という合わせ技の数々を教えてくれた。

コミュニケーションを楽しめる街で

次は、今住む世田谷ミッドタウンについて話を伺う。おのさんがこのエリアに引っ越してきたのは3年ほど前のこと。その前は、代官山や中目黒など、都心部に近い場所に住んでいたそうだが、なぜこのエリアを選んだのか聞いてみると…。

「この辺りの雰囲気が好きなのと、深沢で生まれたので、なんとなく思い入れもあったんです。近所に友達もいるし。といっても、住む場所にはあまりこだわらない方なんですよね、子どもの頃は親の都合で転勤が多かったので。エリアで選んだというよりは、部屋の風通しがすごく気に入ったっていうのが先でしたかね(笑)」

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実は、このエリアに住まいを構えるのははじめてではなく、若林に住んでいたこともあったという。

「もう20年くらい前のことですけどね。本当は三軒茶屋に住みたかったんですけど、家賃が高いので妥協したというか(笑)。この辺りは当時と今とでは街の雰囲気もすいぶん変わりましたよね。松陰神社とかあんなにお洒落になっちゃって」

普段は自転車で移動することが多いというが、利便性はどうなのだろう?

「住んでみたらすごく便利。私の家からは桜新町と上町と、駅が2つ使えるのもあるし、自転車なら二子玉川とか池尻あたりまでなら行けますしね」

まだ住んで3年だが、弦巻の街に居心地の良さも感じているというおのさん。

「お豆腐屋さんだったり、居酒屋へ行ってもそうなんですけど、みなさんフレンドリー。顔を憶えてもらったり、地域の人とのコミュニケーションが楽しいですよね。あとは馬事公苑とか公園が多いのも魅力かな。今はすごく居心地が良いですね」

これからも、麹の伝道師として

麹ブームの火付け役として、順風満帆にやってきたのかと思いきや、手探り続きだった麹料理研究家の道。それでも、おのさんはそれを楽しみながら歩いてきたんだろうな、と思う。

「ほんとは肩書きの頭に、”なんちゃって”とか付けたいんですけどね(笑)。でも、私みたいな人でもできる簡単レシピっていう形でやっていけたらいいのかなと思ってます。和えるだけとか麹料理は本当に簡単ですから」

そんな消費者に近いスタンスも多くの人に受け入れられる秘訣なのかもしれない。誰も注目していない、手探りのところからやってきて、麹ブームになったことを率直にどう思っているのだろう。

「私はひねくれ者なので、一歩引いて見る感じもなくはないですけど、麹はカラダに良くて、伝統のものだし、誰にでも愛されるもの。良いものを流行らせることができたのかな、ってうれしい気持ちはあります。母親とかから褒められたりもしますしね。わけのわからないうちに、良いことしちゃったな、って」

最後に、今後の活動について伺う。

「ブームが終わって、自分ではもう散々紹介してきましたけど、こうやって取材を受けたりお話をする中で、麹料理を作ったことのない方がいらっしゃったりとか、何がカラダにいいんですか?って聞かれたりするので、これからも伝導していこうかな、とは思ってます。それでも、麹一本じゃなく、デザインやイラストの仕事も続けていきたいです。私には色々やる方が合っていると思うので。ただ、新しい調味料を探すというよりは、麹にはこだわっていきたいですね」

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気さくな人柄のおのさんと、合わせるものを選ばない塩麹と、フレンドリーな世田谷ミッドタウンの街は、なんだか心地よい波長でつながっているような印象を受けた。きっと今後も、麹好きの自然増殖は続くだろう。おのさんも、都内各所でイベントに参加する予定とのことなので、ご興味を持たれた方は、ぜひ一度、家で塩麹づくりにチャレンジしてみるか、おのさんの料理イベントに参加してみては?

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