特集
KONCOSと歩く世田谷ボロ市
世田谷の街に430年以上も続く「世田谷ボロ市」。世田谷線沿線が最も賑わう地域の代表的なイベントを、世田谷ミッドタウン在住の音楽ユニット、KONCOSの古川太一と佐藤寛が歩く。古着や古道具などを扱う露店に飲食店、そしてボロ市名物まで堪能。街と旅をテーマに活動してきたKONCOSからボロ市の楽しさが見えてくる。
文章・構成:加藤将太 写真:山川哲矢
ボロ市名物といえば
ボロ市経験者に「ボロ市名物は何ですか?」と質問すると、「代官餅」という答えが限りなく100%に近いだろう。
代官餅とは、その場で蒸してついた温かくてボリュームのあるお餅。1975年に発売されて以来、ボロ市を代表する名物として親しまれている。種類はあんこ、きなこ、からみの3種類。それぞれ650円で発売されている。毎年代官餅の売店には絶え間なく行列が続き、時間によっては30分~1時間以上待ちとなることも。それでも、代官餅を目当てにボロ市を訪れる人も多いほどに名物となっているのだ。
KONCOSもはじめての代官餅を買うために売店の列に並んだ。まだ初日の午前中にもかかわらず、この長蛇の列には驚かされる。無事に代官餅を手に入れると、売店近くの即席テーブルへ。お座敷もあるので腰を下ろして休憩するのもいい。温かいお茶とともにつきたての3種類のお餅を食べ比べた結果、太一さんと寛さんのお気に入りは、醤油で味付けられた大根おろしにネギとのりが絡むからみ。上品な甘さのあんこときなこを含めて、ボロ市に来たら代官餅をゲットしよう。これを食べなきゃボロ市を満喫したと言えないほどの名物を、ぜひご賞味あれ。
東京なのに東京っぽくないボロ市
ボロ市通りから世田谷通りを練り歩き、KONCOSのボロ市散策は終わりに。太一さんと寛さんに古き良き世田谷にふれた時間を振り返ってもらった。
「はじめてのボロ市は異様な盛り上がりでしたね。ボロ市とは関係なさそうなスナックの人がお店の軒先で洋服を売っていたり、飲み屋も特別に午前中から開いていたりして、ボロ市に便乗する感じが最高でした(笑)。そういうところも全部含めてボロ市なんでしょうね。ずっと世田谷線でボロ市の広告を見てきたけど、まさかあんなにパワーがあって盛り上がっているとは思わなかったです。ボロ市は一度行くべき」(太一)
「ボロ市はやっぱり面白かったです。1月のボロ市は正月感がありましたけど、今回は年末感があって雰囲気が違いましたね。こんな所狭しに賑わっているお祭りは僕らの地元の帯広にもないですよ。街のエネルギーを感じました。年2回、それも新年と年末に開催されるお祭りは無条件に楽しいですね」(寛)
売られているものに目新しいものはないかもしれない。そういう意味では、ボロ市は若者向けのイベントではないと思う。でも、流行とはまた違う、世田谷の知らない一面を垣間見ることのできるという意味で、もっと地域を深く知る機会になるはずだ。
「この前撮影で台湾に行ったときに、向こうの夜市に行ったんです。いろいろなものが売られていて、買い食いしながら練り歩く感じがボロ市と似ているなって思い出しました。僕が住んでいる世田谷代田からボロ市のエリアは少しアクセスが不便でなかなか来られないけど、名店と呼べるお店が多いからやっぱり来ると楽しいですね。ボロ市のついでに『ルーガン』で肉まん、『たこ坊』でたこ焼き、松陰神社前で『SUDO』と『ニコラス精養堂』でパンを買う、『MERCI BAKE』のみんなにご挨拶、そういう楽しみ方がいいなって思います。夕方以降は仕事帰りの人たちが多くなるって聞いたので、『酒の高はし』で呑んだりもしてみたいですね」(太一)
「ボロ市で盛り上がっている一方で、たとえば、松陰神社の商店街はいつもと変わらない感じだったのもいいですね。ボロ市の日にボロ市のエリアとその周りの街を歩くだけで、この辺りのお祭り感と普段の感じを一気に体感できると思いますよ」(寛)
個人的には、ボロ市のお祭り感はお花見や夏祭りに似ていて、なんだか懐かしい気持ちになった。育った場所が東京でも地方でも、ボロ市散策は誰かにとっての地元を思い出す時間になるのかもしれない。ボロ市の中心になっているのは、世田谷駅と上町駅を中心に暮らす人たち、あるいはその土地で商いを営んでいる人たちだ。その地域の人たちと街との関わり合いが見える光景に、東京なのに東京ではない、都会の中のローカルをきっと感じることだろう。