eatreat.CHAYA

小林静香さん

最寄り駅
三軒茶屋

三茶WORKの吉田さん、千田さん、土屋さんに続き、その中で茶屋を営む「eatreat.」の小林静香さんにインタビュー。小林さんは、アーユルヴェーダに基づく料理やドリンクを提供しながら、アーユルヴェーダカウンセラーとしても活動し、さらにはコワーキングスペースのコミュニティマネージャーとしても三茶WORKを切り盛りする。食とコミュニティを繋ぐ料理家は、三茶WORKからどのように三茶を見つめ、どのようにしていきたいと思っているのだろうか。

文章・構成:
山田友佳里 写真:三田村亮

腑に落ちていく料理

三茶WORKの扉を開けると、まず半対面式のカウンター付きキッチンが出迎える。ここが「茶屋(三茶WORKでは『茶や』と表記)」スペースだ。平日はeatreat.の小林さんが「eatreat.CHAYA」として、休日は三茶の八百屋、三茶ファームが「sanchararm.CHAYA」を営業しており、「eatreat.CHAYA」ではカレープレートを始めとするアーユルヴェーダに基づいた料理とドリンクを提供している。

アーユルヴェーダはインド発祥の古典医療。自然環境と人間は風・火・水(これら3つを合わせてトリ・ドーシャという)という同じ構成要素で成り立っているとし、そのバランスが崩れると病気になりやすくなると説く。そこで、バランスを整える食事や過ごし方を生活習慣にしていくのだ。ゆえにeatreat.CHAYAでも、季節や天気によって日々変化する、お客さんの身体のバランスを整えるレシピを考え、カレープレートなどのメニューを日替わりで出している。

赤・黄・緑と彩りが豊かなカレーは、スパイスの風味やさまざまな食材の食感を楽しんでいるうちに咀嚼されてゆき、自然に下におりていく。その優しさに、胃腸が喜んでいるのが分かるくらいだ。

寒い時期には、身体を温めてくれる参鶏湯(サムゲタン)もメニューに加わる。韓国料理なのにアーユルヴェーダとどう関係があるのだろうと疑問に思ったが、理由を聞いて納得した。

「アーユルヴェーダでは、鶏の出汁を冬に摂ると良いと言われているんです。参鶏湯は韓国では夏の料理として、『熱をもって熱を制す』ことが体に良いと考えられて食べられる料理なんですが、カレーと並行して作れて、誰でも親しみやすくて、冬に食べたいとしたら、もう一つのメニューは参鶏湯かなって。複雑な漢方食材を入れて作る人が多いからちょっとお高いイメージがあるんですが、私は材料をシンプルにするぶん、安価な価格で作っています。その場で身体が芯から温まって、嬉しそうにごちそうさまと言ってくれる方が多いです」

アーユルヴェーダはあくまで、生活の組み立て方の基礎となる考え方。日本人の味覚にも合う料理を分け隔てなく取り入れながら、価格的にも毎日食べやすい、日常的な食事を提供することを心がけている。

青山ファーマーズマーケットにも出店する「東京スパイスハウス」(実店舗は荻窪にある)で仕入れているという、良質なスパイスたち。小林さんの料理やお茶にはすべてにスパイスが使われているが、その風味や色味を優しく引き出すことで、刺激的なものではなく身体と心を整える作用としてはたらく。

食事をとった後の仕事中に眠くなるなんてことは誰しもが経験があるが、それは消化に負担がかかっているから。この店の、すっと吸収されて身体が本来の元気を取り戻すような食事を知ると感動する。そうして日々の食事の大切さに気付いた利用者も多いはずだ。

eatreat.CHAYAができるまで

そんな料理を作る小林さんは、食に携わり始めてから約10年になる。最初は会社勤めの傍ら、友人と遊び感覚でケータリングをするようになった。

「そのときはアーユルヴェーダの『あ』の字も知らなかったし、友人と遊び感覚でやっていました。毎月色でテーマを決めて、今月は紫とか、来月は赤とか、そのときの旬の野菜を色で集めて、食べ終わったあとに色の美しさを記憶に残してもらえるようなケータリングをやろうと話していました。一通りやりきって1人になってからは、お客様の要望に合わせて食事を作っていたんですが、だんだん素人のままでやるのは心苦しくなってきて。新卒から勤めたテレビ局での仕事は、楽しいけれどおばあちゃんになるまで続けられるだろうか? と疑問に感じて辞め、食の道に進むことにしました」

その後は、ビストロや日本酒を出すおでん居酒屋、保育園でも調理の仕事に携わった。

「その中でもビストロにいた時のシェフには、視覚・聴覚・味覚、様々な感覚器官すべてが喜ぶうつくしい料理の基本を教わりました。人に食事を提供する仕事の厳しさ、自然や生産者に対する敬意、飲食に携わる人の健康の大切さも全てです」

ところが、飲食店で勤めていた頃に食物アレルギーを発症した。鯖やエビ・蟹などの青魚・甲殻類アレルギーで、大人になってからのアナフィラキシーショックを体験する。

「アロマオイルマッサージに携わる人が精油アレルギーにかかるように、調理に携わる方が食物の接触アレルギーにかかることは珍しいことではありませんが、『人の身体が良くなるように、食の仕事がしたい』と思っていたわたしにとって、食事で自分の身体の調子が悪くなるのは残念だったし、皮膚科にかかるとどこでも『アレルギーは原因も対策も明確ではないもの』と言われることが不思議で、納得ができませんでした」

その後、「鯖をもう一度食べたい」という気持ちが原動力になり(笑)、薬膳からスタートし、さらに源流を遡ってアーユルヴェーダに行き着き、古典医療を基礎から学んだ。世界保健機関も認める代替医療の代表であるアーユルヴェーダは、体系的でロジカルに人の身体の心を支えることができる一般生活者にも開かれた生活の智慧だ。

古代の智慧は、小林さんが今でも通う、日本アーユルヴェーダスクールの講師陣のユーモラスな魅力も手伝って、彼女の冒険心と探究心を強く刺激した。その後、学びを続けながら自分なりにアレルギーを解釈し、鯖アレルギーを克服した上で、これからどうしていこうか迷っていたとき。とある人物が背中を押してくれた。

それは「しぜんの国保育園」理事長の齋藤紘良(さいとうこうりょう)さん。しぜんの国保育園は、子供の主体性を大切にする方針が注目を集めており、町田と渋谷に加えて、2019年には上町にも「上町しぜんの国保育園 small pond」が開園している。

一度リニューアルオープンの時ケータリングを頼んでもらったことがきっかけで知り合った齋藤さんに、久しぶりに再会した。

「2年ほど前に、紘良さんにすごく久しぶりに会ったんです。町田の保育園で開催する『サウンド園庭』というイベントに出店しませんかというお声がけで。その頃、どんな風に料理を続けていくか道が見えなくなっていたんですが、紘良さんは『やれたらやったほうがいい』と言ってくれて、決心がつきました。それが再出発のいいきっかけになったと思います。必要に迫られて、eatreat.という屋号も急いで決めました。紘良さんがいなかったら、eatreat.は生まれてなかったかもしれません。人との縁と巡り合いの連続で、今があります。」

それからはeatreat.として、ヨガのイベントと組み合わせながら料理を作ったり、イベントやオンラインストアでスパイスティーを販売したり。場所を借りながらアーユルヴェーダのカウンセリングも不定期で行なっていた。そして、三茶WORKの立ち上げに小林さんを誘ったのが、三茶WORKの代表の1人でありアートディレクターでもある土屋勇太さんだった。

「屋号ができて、早速お茶を売り始めたんですが、これで良いのか迷うところが多々あり。たくさん売ることが目的ではないけれど、このお茶が広がることがeatreat.やアーユルヴェーダへの入り口であってほしいのに、と悶々としていました。だから、土屋さんとファーマーズマーケットですごく久しぶりに再会したときに勢いでパッケージのデザインをお願いしたんです。当時は大して親しくもなかったのに、この人に声掛けなきゃって急に思って(笑)。そういう直観力と判断力だけはあるんです」

茶屋でも販売しているeatreat.TEAは、国産のハーブと世界のスパイスをハンドブレンドしたお茶だ。赤の「こころに、おだやかよろこぶ茶」、青の「おなかに、すっきりリセット茶」、黄の「カラダに、ぽかぽかスパイスチャイ」の3種類に、現在は三茶WORKとのコラボレーションとして「おさけも、おいしくたのしむリトリート茶」が加わった4種類を展開している。素材本来の色を効能のイメージとして生かしたパッケージ。実はヴィジュアルだけでなく、生産や運用についてもうまくデザインされている。

詳しくは三茶WORKの記事をご覧いただきたいのだが、このパッケージの打ち合わせのちょうど1時間前、三茶WORKのコンセプト打ち合わせでコワーキングスペースに茶屋を併設しようというアイデアが生まれ、小林さんに白羽の矢が立ったのだった。

「『3軒の茶屋があったから三軒茶屋なんです』と説明されて、まさか自分と関係すると思わず聞いていたら、そこで茶屋を開いたらどうですかと。すごく嬉しくて、すぐにやろうと決断しました」

二つ返事で引き受けたものの、場所を持つことに対しての不安は大きかったという。

「料理の経験も少ないし、本当にやり抜けるか心配でした。だけど、そろそろ居場所を持たないと、本来イメージするお客さんとの関係はこれ以上築けないと思いました。それまでは不定期でカフェの一角を借りながらカウンセリングをやっていたんですが、健康は一夜で改善するものではないので、長いおつきあいをしながらフォローアップしていきたいんです。だから、ここに行けば私に会って話ができる、という居場所を作ろうかなと思い始めていたんですが。まさか飲食店になるとはそのとき思っていませんでした。できてから、こういう場所が欲しかったんだと理解した感じです。土屋さんに感謝です」

料理家がコミュニティマネージャーをするということ

店を持つことだけでなく、コミュニティマネージャーという役割も初めての経験だった。

「こんなに大変だとは思わずに気軽に引き受けたら、めちゃくちゃ大変だったっていう(笑)。人と人を繋ぐことも、そこから発展させていくことも、そして日々のこの場所を働きやすいようにケアすることもコミュニティマネージャーの仕事です。既存会員さんに関しては、それぞれのお仕事や興味のあることなどを契約の段階から聞くことで、頭にインプットされているので、タイミングの良いときに会員同士を紹介します。場合によっては茶屋のお客さんとお繋ぎすることもあって、アロマのジュエリーを作っている私の友達が来てくれたときに調香師の会員さんを紹介したら仕事になったこともありました。もちろん、三茶WORKに興味を持って来てくれた人に、ここの魅力をお伝えして契約に繋げるのも私の役割。こちらからたくさん話したくなるくらい魅力いっぱいの場所だから、全然苦にならない。契約者が自然と増えるのも当然です。コワーキングはどこもコミュニティ作りが課題みたいだけど、こんなに自然発生的に繋がりが生まれ、個人単位から家族単位、街単位まで気持ちの良い関係性が生まれているコワーキングはないと自負しています」

カウンセリングで培った小林さんのコミュニケーション力もさることながら、現在進行系で魅力が増していく三茶WORKだからこそ、オープン以来順調にその輪を広げているのだと、ここに来ると分かる。

「扉を開けた瞬間に、良い雰囲気が伝わってくるんでしょうね。それは、立ち上げメンバーが今も自ら運営しながら、利用もしているからだと思います。例えば設計のしばしゅう(家具デザイナー・柴山修平さん)やしばひで(建築家・柴山継広さん)が、『あそこに棚があったらいいね』と言って新たに造作してくれたり、さりげなく植物を足してくれたりすることもそうだし、土屋さんがイベントのバナー画像をデザインしてくれて、それが魅力の発信に繋がることもある。本当にささやかな積み重ねで場所の“気”が回っていると感じます。立ち上げてはい、解散の組織だったら、できないことだと思います。この場所の心地よさは、運営メンバーと、会員さん、茶屋のお客さんみんなで作っています」

食に携わる人がコミュニティマネージャーを兼ねることで、もたらされるものも大きい。料理を組み合わせた企画は好評で、三茶WORKの利用者が交流したり、新しく三茶WORKを知ってもらったりすることに一役買っている。

「食事する場所には人が集まるから、私の料理が一つのコンテンツとして、いろんな人やものを組み合わせるいいきっかけになっていると思います。働くカラダづくりのワークショップに私が朝ご飯を出すとか、ヨガの先生と呼吸を整えてからランチを食べる会を開くとか。食事との組み合わせを含めて、みんな毎回すごく楽しんでくれる。何もなかったらそれぞれ仕事をしに来るだけの場所になってしまうけど、ちょっとしたワークショップと食事が組み合わさって、集まる機会ができるのは良いと思います」

茶屋の営業があるため、コミュニティマネージャーとしての時間をまとめて取ることはなかなか厳しいが、それでも仕事をこなすことができるのは、運営メンバーの支えがあってこそだという。

「三茶WORKは誰かが管理し、誰かに指示をして仕事が発生する組織ではありません。やりたいと思った人がボールを持ち、そのボールがゴールインするのをみんなで助け合うフラットな組織。私も悩むことがあったらSlackに投げて、みんなと話し合いながら自然と決定に至るのを待ちます。一人でやりきるより、みんなで進める方が、だいたい良い結果を生みます。みんなが楽しいと思っていることはスイスイ進むし、そうでもないことはスイスイ進まない。笑」

三茶のつながりの一部になれることが嬉しい

20代の頃、三宿や池尻に住んでいたという小林さん。30代になって離れたが、今、三茶や世田谷で暮らしながら働く人たちと日々触れ合って何を感じているのだろう。

「三茶WORKができる前、土屋さんや吉田さんが『三茶が、三茶が』と言っていたとき、なんでこの人たちそんなに三茶三茶言うんだろうって思ったんですよ(笑)。なのに今は私も洗脳されたかのように三茶がすごく好き。みんなの家族がいて、その家族と一緒に暮らす街を良くしたいという気持ちがよく分かります。個人の飲食店も横の繋がりがとても強いので、その仲間に入れることが嬉しいです。オブスキュラコーヒーやシバカリーワラ、ジョーズマン2号など、昔からある名店が新しい店を積極的に応援してくれて、お客さんに紹介してくれる。なかなかないことです。だから私もここにいながら、遠方から来たお客さんには周りのお店を案内しています。誇らしく案内をしたくなる店がいっぱいありますね。三茶ではないですが、豪徳寺『ketoku』の松岡悠シェフは飲食店に勤めていた頃に一番お世話になった、大好きな先輩です。ketokuにもよく飲みに行くし、eatreat.のお茶も卸させてもらって、自分の仕事で繋がりができたことを誇りに思います。ketokuにもぜひ行ってください」

アーユルヴェーダでみんなの健康を支えていく

甘く香ばしい香りが店内に満ちる。淹れたてのチャイをいただきながら、eatreat.として大切にしていることや、これからについて伺った。

「最近は常連さんも増えてきて、こちらからアーユルヴェーダの話をしなくても、自然に自分の身体のことを話してくれるようになりました。カウンター越しに健康相談に乗るなんて、言葉でいうのは簡単だけど本当にできるのかな?と思っていました。でも、料理を通じて気持ちを伝えていたら、自然とそういう場ができてきたから、これからはもっと具体的にお客様の体を注意深くサポートできる料理やお茶を作りたい。お客さんの顔を覚えてくると、毎回顔色が違うことに気づくし、今日は目がきれいだな、舌がきれいだなとか分かってとても嬉しい。その逆もあります。言葉に出さない不調に気づいたら、お茶を少し変えてみるとか、塩の量を変えてみるとか、さりげなくサポートできるようになりたい。それがアーユルヴェーダの料理家だと思っています」

食事を提供するだけでなく、アーユルヴェーダの食事法をベースに、普段の暮らしを自分で整えることができるようになるよう、今年から料理教室も始めた。

「私の料理教室では、アーユルヴェーダの食事の考え方について話し、季節ごとの変化や身体の調子を参加者みんなで言語化した上で、デモンストレーションで作った料理を食べて体感してもらっています。今まではまずカウンセリングに来てもらっていたんですが、食のことだけでも知りたいと思ったら、気軽に料理教室へ参加してほしいですね。アーユルヴェーダの世界では私はまだまだ若手なので、次の世代に求められているアーユルヴェーダを、料理家として平たい言葉で伝えていくのが今年の目標です」

自分にできるやり方でその考えを伝え広めていくこと。できることから始めてもらうこと。「食べる」から始まる、自分の身体への気づきがeatreat.CHAYAにはある。その先は。

「アーユルヴェーダにはディナチャリヤといって、理想の1日の過ごし方があります。日本人は季節の話に関心が高いから、去年までのワークショップでは季節ごとの過ごし方をお伝えしていたんですが、それをきっかけにアーユルヴェーダに興味を持ってくれる人が増えたんです。その人たちに次にお伝えすることは、1日の過ごし方。朝起きて、どうやって前日に溜まった老廃物を流すか、瞑想とは何か、朝のヨガは何をするか。今年は、瞑想やトリートメント、ヨガの専門家と組んで、みなさんが1日の過ごし方のサイクルを自然と過ごすことができるようになるよう、企画を作っていきたいです。健康は、1日、1日の積み重ねなので」

「三茶WORKのeatreat.CHAYAとしては、会員さんと一緒にやる健康と仕事のイベントを続けていきたいですね。プロトレーナーの森川さんと一緒に身体を動かすワークショップや、子連れでも来られるようなイベントも、もっとやっていきたい。それから、インドのゴンド画のようなトライバルアートの企画を作ったり、生活の道具をじっくり選ぶようなイベントも企画しています。装飾や芸術はなくてもよいけれど、あったら人の心に深い慈愛と楽しみをもたらすもの。アーユルヴェーダの言葉を語るだけでなく、アートや用の美の視点でこの空間に新しい空気が吹き込まれ、それが三茶の街へと豊かに広がっていく様子を見てみたいです」

eatreat.として、三茶WORKのコミュニティマネージャーとして。三茶から人々の健康を支え、生活を豊かにしていく。

eatreat.CHAYA
住所:世田谷区太子堂2丁目17−5 3F
営業時間:9:00〜18:00
定休日:土曜、日曜(土日はsanchararm.CHAYAの営業)
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